大切な思い出、宝物だよ

 登山道で突然の悪天候に襲われ3日目。天候は依然として回復せず、あおいとひなたはなんとか体を覆うだけだった雪洞から抜け出せず、ただ寒気に耐えていた。
 その日の夕刻、まるで時間の感覚もつかめない中突然ひなたが力なく言った。
「今日はいやに暖かいんだねあおいちゃん」
 ぼんやりした目、うつろな表情。あおいは背筋に冷たいものが走るのを感じ、しかし努めて冷静に応じた。
「ひなた、しっかりして。ここは厳冬期の北アルプスよ。もうすぐ低気圧が抜ける、そうすれば晴れ間も戻るよ」
「ごめんね…」
 力なくひなたが謝る。この自殺的ともいえる山行の言いだしっぺは彼女なのだ。
 かえでが大キレットで行方不明になり精神的に参ってしまったひなたは一時荒れた。悪さばかりしている少女だったが、登山の師匠とも言えるかえでの死は素直で天真爛漫だった彼女の人格を歪めるのに十分だった。
「ひなた、謝らないで。きっと天気は回復する。私たちは下山できる」
「もういいの、あおい、もう…」
 ひなたの膝から下は昨晩から感触が失われていた。もう歩くことはかなわない。そしてあおいもまた自らの異変に気がついた。
 足の指が動かない。
 ―凍傷になったのだ。



  なんかこんな感じのを書こうと思ってます。