駅を出ると、ミルフィーユが傘を持って待っていた。ミルフィーユは僕に気がついていない。僕はなぜだか声がかけられずにミルフィーユをそのまま柱の影からそっと眺めてしまった。そのとき僕がどうしてそんな風にしたのか自分でもわからなかったのだけれども、あとになって考えると、いったいどんな顔をしてミルフィーユが僕を待っているのか興味を持ってしまったからなのかもしれない。
 はじめ僕を迎えに来てくれたときには派手なエンジェル隊の制服で来てしまったので衆目を集めて少し恥ずかしかったけれど、今日は明るい色のワンピースを着ていた。その少女的ないでたちもまた大変目立ったけれど、嫌な気はしない。だって、ミルフィーユはとても愛らしいから。
 僕たちの住む町はお世辞にも都会とはいえないところで、駅前もさびれている。ひとつの列車から降りる人数など知れたものだった。
 傘を持って立っているミルフィーユ。僕が雨にぬれることを心配して。ミルフィーユはきょろきょろと通り過ぎる人を確認しながら僕を探してくれていた。
 駅から出てきた人たちが全部通り過ぎると、ミルフィーユは少しがっかりしたように肩を下ろした。
 そのときの表情が本当に悲しげで。僕は思わず、ミルフィーユに駆け寄ってしまった。
 ばしゃばしゃと水溜りを踏みつけながらミルフィーユの元へ走る。ミルフィーユの表情がぱっ、と明るくなったのが視界の片隅に入ったのだけれども、そんなことより僕はミルフィーユに悲しい顔をさせたことが申し訳なくて。
「ごめん、君がきれいで愛らしくて、立っている姿がとても絵になって、いやまさに絵の中に君がいたようで、そんな君をずっと見ていたくてそれで」
 さっ、と傘が僕の前に差し出された。
「濡れますよぉ、はい」
 ミルフィーユは向日葵のような笑顔で僕を迎えてくれた。
「お帰りなさぁい」
「あ、うん。ただいま」
 間の抜けたやり取り。けれどその仕草、声、表情。すべてがいとしくて。僕がこれから受ける全ての幸運を彼女に捧げてもいいと思った。