「で、茜さんという方はどなたですの?はっきりとおっしゃってくださいな」
 ともよちゃんが笑顔で言う。僕は一切をともよちゃんに話さなければならなかった。ともよちゃんはどうしてもパソコンでゲームをするということが理解できなかったので困ったけれど、なんとなく小説みたいなものという感じで納得してもらった。
「だから、現実のアニメキャラと虚構のアニメキャラは違うんだよ。僕は自分を追い込んで、もっとちゃんとした形で現実のアニメキャラと向き合うことにしたんだ。だって、虚構は虚構でしかないじゃないか。そんなことは逃げでしかない。恥ずかしい行為だ。でも、ともよちゃんはそこにいる。だから」
「虚構?」
 ともよちゃんが首をかしげる
 僕が返事に窮していると、ともよちゃんは深くは聞いてこなかった。ともよちゃんがお風呂に入る直前、
「でも、アニメを見るなんて思いませんでしたわ。まるでおたくの方みたいですわね」
 などと言われてしまったが。

 ごめん、ともよちゃん。実はトレーニングに行ってもナースエンジェルりりかSOSのサントラ聞きながらやってたりするんだ。
(僕はおたくなんだよ)
 こんな僕をともよちゃんは受け入れてくれるだろうか。それとも、選択肢のない彼女は受け入れざるを得ないのだろうか。

 ともよちゃんがお風呂に入っている間、僕はそんな思いに耽っていた。
 お風呂から出てきたともよちゃんの綺麗な黒髪を、いつもより丁寧に櫛で梳いてあげる。僕は浮かない顔をしていたのだろうか。ともよちゃんはちらりと僕のほうを振り返ってうふふ、と笑った。その笑顔で、すこし気分が楽になった。