まどっちぺろぺろ

 もぐもぐぐちゃ

 異形の魔女シャーロットがマミさんを捕食中。
 先ほどまでの完勝ムードは絶望へと取って代わった。
「さあ、今すぐ契約を!」
 キュウベエの切羽詰った声が異空間に響く。
「ひぃっ…!」
「さあ!早く願い事をきめるんだ!」
 そうだ。今ここで生き残るためには魔法少女になる契約をしなくてはならない。しかしそのためには願い事を決めなければ。
 ああ。
 まどかは必死に考えた。なにかいい願い事を。マミさんが助かって、なおかつ自分のためになる願い事だ。
 なにかあるはずだ。ああ、どうしよう。あああ!
 
 
「じゃ、じゃあのあの!」
 錯乱したまどかが立ち上がった。
「私が契約する!それでマミさんを」
 キュウベエがまどかを見つめる。さやかは半ば呆然とそのやり取りを見ていた。

「マミさんをカキタレにして!」
 
 
 
 
「…えっ?」
 となりで震えていたさやかはそのときようやく我を取り戻していた。立ち上がったまどかの、下から見上げた表情は明らかに―錯乱していた。
「まどか?ちょっといいかな?」
 落ち着いている声だが、明らかに困惑の混じった声でキュウベエが言う。
「あの…カキタレって、なんだい?」
「いいから早くマミさんを私のカキタレにして!マミさんを私のタレにしてカいてカいてカきまくるの!意味はググれ」
「わかった、じゃ、契約成立だね」
 こともなげに言うキュウベエ。どうやらキュウベエの認識できる範囲でない願いでも聞き届けてもらえるらしい。
 
 
 次の瞬間、マミさんは復活していた。
「あ・・・あ。え?」
 マミさんは一瞬電流が流れたように震え、自分の首筋を何度も撫でた。
「マミさん、上上!目の前のそれ偽者!上が本体!」
「あー…そ、そうね。ありがとう鹿目さん」

 魔法少女となったまどかにはシャーロットの本体、その特質が手に取るようにわかった。
 しきりに首の辺りを撫でさするマミさん。
「なんか…疲れているのかしら。首筋がいやに寒いわ…あと肩が凝る」
 何度も頭を振りながら巨大な銃、というより榴弾砲を空間から取り出し装薬に着火した。
「ティロ…あー、肩こったフィナーレ」
 
 マミさんの必殺技で魔女は無事葬られた。
 
「すごいや!やったあマミさん!」
「まどか…なんかキャラ変わってない?」
 さやかは明らかにおびえながらまどかに話しかける。
「そんなことないよ!さやかちゃん!」
「いや…その威勢よさがすでにキャラ違うって…」
 異空間が崩れ落ちる中マミさんに駆け寄るまどか。
「鹿目さん、あなた…!」
 まどかの体内から発する魔力を察知したマミさんが目を見開いた。 
 切なげな表情とそして無理やりに作った笑顔。
 キュウベエをにらむが彼は小首を傾げるだけだ。
 契約したのだ。自分の記憶は一瞬飛んでいる。それが何故なのかわからないが、しかし。
 そうだ、この後輩を心から祝福してあげなければ。

 なにも恐れるものはない、これからこの子とやってゆくんだ―
「まどか、あり…」
「あ、でもですねマミさん」
 上目遣いのまどか。甘えるような仕草の中に、何故か違和感がある。
「マミさん、肩こった肩こったって…嫌味ですか?」
「え?」
 マミさんは戦慄した。まさか別の魔女の影響…?
 しかしまどかの首筋に魔女の口付けの痕跡はない。
「それは私、胸はないですけど…マミさんみたいにおっきくないですけど」
「あ、あの、鹿目さん?」
「肩こった肩こったって…そんなにおっぱいが重いんですか!」
「ど、どうしたの…?」
「どうもこうもないですよ…非道いなあ。マミさん、そんな見下した目で私を見てたんだ…」
 くるりとその場で半回転して来た道を戻ろうとするまどか。
「待っていかないでごめんなさい悪いところあったら直すから嫌いにならないでうえええあああああ」
 泣き崩れてまどかにすがりつくマミさん。
「あーあ、冗談ですよ。私がマミさんのこと嫌いになるわけないじゃないですか」
 マミをしっかりと受け止め、頭を優しく撫でるまどかの笑いには、邪悪な成分が混ざっていた。
(あー、やっぱマミさん泣き顔最高やわー。これからも泣かしていこう。やっぱええ女は泣き顔が一番色っぽいのー)
 魔法少女というか単なるドS芸人になったまどか。そしてそのカキタレマミさん!見滝原市の未来はどうなってしまうのか!カキタレの意味はググれ!
 
 
 
 一方そのころ
 
 

「この魔女は私が…あれ?」
 かっこよく飛んできたほむほむは泣きじゃくるマミさんとニヤニヤわらうまどかの抱擁という異様な光景に首をかしげるのだった。