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仕事とトレーニングを終え家に帰った。うさだを呼んでみたが、返事がない。
「うさだ?」
俺は台所を探してみたがうさだはいなかった。おかしいなあ、今日は病院の日でもないのに、そう思っていると浴室からシャワー音が聞こえた。
「うさだ、なんだよ、風呂を沸かしてくれているの―」
うさだは例のひらひらした服を着たままシャワーをあびていた。そしてなにやら泣いているような目をして、そして口元は笑っていて、アンビバレントな表情で、それで。
うさだがゆっくりと手のひらを上に向けて両腕を差し出す。
「ごめんなさい。わたし、また」
俺はうめいた。
「なんて・・・なんてことを」
うさだの両腕は手首からひじの辺りまで、何本もの切り傷で真っ赤に染まっていた。その腕からどんどんと血が流れ落ちていく。シャワーの水と混ざり合って、排水溝へと赤い液体が注ぎ込まれていた。
酷い。こんなにひどい傷を、自分で。うさだの手には棒剃刀が握られていた。
「こんなになるまで、切るなんて」
うさだのリストカット癖は今に始まったことではない。けれど、ここまで彼女が自分の体を切り刻んだのは初めてだった。
「おくすりが・・・抜けないのよ・・・嫌なの。嫌」
うさだは俺に微笑みかけながら、そう言った。
「たすけて」
うさだはその場で倒れかかった。あわてて抱きとめる。スーツがびちょびちょになったが、気にしている場合じゃない。
うさだの薬物乱用をやめさせるのはもう無理なんだろうか。俺は救急車を呼ぼうとポケットの携帯を取り出した。
何度うさだにもう一度覚せい剤を注射して、楽にしてやろうと思ったろう。でも、それをするとうさだはまた中毒患者に逆戻りだ。うさだが薄目を開けた。
「しっかりしろ、今救急車を呼ぶからな」
うさだは首を振った。
「いらない。それよりわたしをラビアンローズって呼んで」
俺がラビアン、と言おうとするとうさだは意識を失った。そしてそのまま帰らぬ人となった。
あれから一年たつ。