「鶏肉にはたんぱく質が多く含まれていますわ」
 ともよちゃんが食卓の向こうで笑っている。
「たくさん召し上がってくださいな。トレーニング中のたんぱく質の所要量を満たしていただかないとなりませんわ」
 僕は鶏肉なんていうと鳥のから揚げくらいしか思い浮かばない。ともよちゃんはいろいろ気を使って、食事を準備してくれる。鶏肉を使った料理だけでも、実にたくさんの種類の調理法で作ってくれていた。
 本当はささみのほうがいいのですけど、などと申しわけなさそうにしている。
「むね肉で充分だよ、おいしいよ」
 心から。稼ぎが少ないことをすまなく思う。
 今日は鶏肉とキャベツを煮たものをたくさん作ってくれた。シンプルだけれど、中華風の味付けでうまかったし、何よりそれ以外にもいろいろ手間をかけておかずの品数を増やして小鉢を並べてくれたので、満腹感があった。
 僕といて幸せかい。
 後悔はしていないのかい。
 もうそんな愚かな問いはしない。僕はただ彼女の豪勢ではなくても細やかな気配りに満ちた料理を咀嚼した。