いい天気だったので、ともよちゃんとドライブに出かけることにした。スクワットのし過ぎで大腿筋に力が入らなくて、クラッチが踏めるか心配だったけど、何とか足は動いてくれた。
「いけませんわ・・・ガスの元栓を」
 出発しようと車に乗り込みエンジンをふかすと、ともよちゃんが言いだした。ああ、いつもの奴が始まった。僕は半ばこうなることを予期していたのでエンジンを止め、ともよちゃんと一緒に部屋に戻った。
「大丈夫だね、元栓、電気、水道。よし」
 ともよちゃんがこくり、と頷く。彼女は自分でもわかっているのだ。
 部屋を出て車に戻る。エンジンをかけるとともよちゃんが、
「あのう、すみません、戸締りが・・・」
 僕はうん、と頷いてエンジンを切った。もう一度部屋の前に戻る。鍵を開けて、ドアを開け、もう一度鍵を閉める。笑顔を浮かべて、
「さあ、ともよちゃん、たしかめて」
 ともよちゃんは力なく白い手を添えてドアノブをがちゃがちゃとまわした。空いているほうの手は口元へやって、なんとなく幼いしぐさだった。
 車に戻る。エンジンをかける。クラッチをふみ、サイドブレーキをもどして発進しようとすると、
「あのう・・・」
 ともよちゃんが涙声になっている。
「電気のスイッチを切ったか気になって・・・」
「うん」
 もう一度部屋に戻る。鍵を開けてドアを開ける。目を真っ赤にしているともよちゃんを振り返り、できるだけ優しく話しかける。
「いいんだよ、ともよちゃん、気が済むまで確かめて」
 ともよちゃんはすみません、すみません、といいながら全部の電気製品のスイッチを確かめた。
 結局僕たちは10回くらい車と部屋を行きつ戻りつして、出発したのは一時間もあとになった。出発してからもともよちゃんはそわそわしていたけど、自分のポーチからお薬を取り出して3錠ほど飲んで、なんとか落ち着いたみたいだった。
「きにしないでいいよ。ね。気にしないで」
「申しわけありません、申しわけ・・・うぅ」
 僕が言えば言うほどともよちゃんはつらくなるようだ。わかってはいても声をかけずに入られなかった。