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天気が悪くなるかと思ったけど意外にいい天気だったのでともよちゃんとお出かけした。ともよちゃんも少し身体を動かすと元気になるかなあ、などとも考えて近場の山道をすこしだけ歩くことにした。
ああ、ともよちゃんが楽に動けるような服装ってなにかあったかな、と思ってともよちゃんに聞いてみた。ともよちゃんは意外とちゃんとした探検隊の服みたいなのを引っ張り出してきた。
「ともよちゃんは衣装持ちだね」
「そうでしょうか」
すこし、ともよちゃんが暗い顔になる。
「実は、この服は私にはすこし大きいんですわ」
そのことばで僕は悟った。お休みで浮き立った気持ちが急に冷え込む。僕の表情を見て取ったともよちゃん。いつものように気を使って。
「―かまいませんわ。いつまでも、くよくよしていても」
そこまで言ってともよちゃんは押し黙った。これでも、ずいぶんと前向きになったのだ。僕はそうだね、とあいまいに相槌をうった。
今日のともよちゃんはいつもの強迫行動をおこさなかった。そのかわりに車を出してから10分位、いやに僕に話しかけてきた。きっと、一生懸命我慢しているんだと思う。信号待ちをしているときふとみると、きつくこぶしをひざの上で握り締めていた。
「ロープウェイにのるんですの?」
ともよちゃんにきつい坂の上り下りはつらいだろうと、僕は山頂までロープウェイでいける低い山のふもとまで行った。尾根伝いにくるっと軽く山頂付近を一周することができる。
ロープウェイの中は無人だった。下方の山々は赤く色付きはじめていた。
「もう秋になってしまいました」
ぽつり、寂しげにともよちゃんが言う。今の自分を詰るように。何とかしなければ。口に出た言葉は。
「大丈夫」
僕はつまらない男だ。気の聞いた言葉一つかけられない。
「大丈夫だよ、ともよちゃん」
はっ、とともよちゃんが顔をあげる。くちをもごもごさせている。ちょこん、と腰掛けたまま俯いて。小声で。
「―ちゃん、わたしは―」
なにやら、少女の名を呟いていた。
1.6キロのハイキングコースは、ともよちゃんをずいぶん疲労させたらしい。何ヶ月もろくに外に出ず、薬物を多量に摂取。当然だろう。ともよちゃんは帰りの車中で眠りこけて、駐車場から部屋までは僕が抱きかかえて運んだ。布団に寝かせてあげてもまだ眠っている。あまりにも安らかで真っ白な肌の寝顔に、僕は一瞬ともよちゃんが死んだのではないかとおもって、あわてて呼吸を確かめた。
ともよちゃんが死んだりしたら、僕は生きていられるだろうか。 考えるまでもないことだった。