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会社から持ちかえったスーツケースを開く。中にはスイッチ類が多数。
「これはなに?」
メテオさんが尋ねた。冷静な口調だった。
「起爆装置です。藤吉家に高性能爆薬を2組。幼稚園に1組。その他、コメットの地球滞在時の立ち寄り先すべてに仕掛けてあります。それと」
プラスチックカバーに覆われたものものしい大きなボタン。
「これが例のスイッチです」
「そう」
メテオさんは少しだけ顔を歪めた。
「今のコメットにそんな脅しが通用するかしら」
わからない。彼女やその係累のものたちが愛したこの星を死の星に変えてまでメテオさんを抹殺に来るのか。
「相手はきちがいです。備えは厳重にするに越したことはありません」
「それともうひとつ」
メテオさんはやはり少しだけ、悲しげで。しかし毅然として。
「あなたはもちろんのこと、あなたの故郷も滅ぶのよ。それでも?」
「まさか。脅しは、脅しです」
嘘だ。メテオさんのいない世界に何の価値があるというんだろう。
コメットたちはいずれメテオさんを殺しにくる。かつてホシビトたちの力を集める能力を持ち、コメットに互する星力を持っていたメテオさんが、潜在的驚異であることに代わりはない。万が一コメットに不平をいだくホシビトたちがメテオさんに組みすることがあれば。その不安は拭いきれまい。
−コメットは、狂った。
奴はいったいどれだけの彼女のはらからを粛正しただろう。彼女の意に添わぬ者を殺したろう。
暴君ネロ。カテリーナ・ディ・メディチ。オッペンハイマー。スタ−リン。ポル・ポト。
コメットの殺した同胞たちの数は、地球でおこなわれたどんな内戦や粛正、虐殺よりも規模が大きい。
コメットのおこなった虐待、拷問の数々。
コメットは、狂った。
だから、奴らが来たら戦いになることは覚悟せねぱならないだろう。そして。
−ある程度の出血をコメットたちに強要し、ある条件を引き出さなくてはならない。とてもささやかで、大切な条件。
すなわちメテオ王女殿下の生存の黙認だ。
もはやメテオさんは星国への影響力などいささかも欲してはいない。きちがいコメットがどう思おうが、メテオさんはいまや星力どころかついこの間までは軽火器も使えなかった、非力な少女でしかない。
ただただ平和に残りの人生を過ごせる環境をつくる。これが、私がいま行っている「準備」の目的だった。