ともよちゃんは週一回、クリニックに通っている。一時期入院も進められるほどむごい状態だった彼女が週一度の通院だけで大丈夫になったのは、このクリニックの先生の力によるところも大きいと思う。
 難点といえば、やはりいいお医者さんであるということが周囲に伝わっていることで、待合室は満員だった。

「8人待ちで―大体2時間くらい待っていただかないとなりませんね」
 看護婦さんにそういわれた僕たちはやむを得ず病院を向けだしてあたりをぶらつくことにした。

 心療内科、という看板がかかっている入り口を出て、少し歩くと公園があった。
 土曜日の午前だったが人影は少なく、僕たちはベンチに腰かけて少し話をした。たわいもない話だ。

 それほどいっしょにいて話も弾まない僕たちが、いっしょにいて長い時間をすごせるのは不思議なことだった。しかし僕たちの間には不思議な共生感があって。
 おたがいがそこにいることが満足である、ということがわかって。心の中が暖かくなるのだった。

 一時間半も経ったろうか。病院へ戻る。相変わらずの盛況振りでずいぶんと混雑していた。
 意外に思う人が多いかもしれないが、心療内科を受診する人は結構普通の人が多い。だというのに、もしともよちゃんをきちがい扱いするやつがいたら、僕は迷わずぶち殺す覚悟で町を歩いている。
 以前は診察室にともよちゃんと一緒に入ったものだが、ここのところ同伴はしないようにしている。僕との関係が人間関係のすべてであるともよちゃんが、人について話すときに僕の存在に気をつかってしまうかもしれない、と思ったからだ。
 診察はわりとあっさり終わった。患者が多くて急がしい先生に気をつかったのだろう。しかし出てくるときは笑顔で挨拶をしていたので、それほど深刻な話題にはならなかったみたいだ。
 ともよちゃんはいつものようにおくすりをいっぱいもらった。その量にはいつも言葉を失う。
「こんなに、長い間外に出て、少し疲れたかもしれません。でも」
 ともよちゃんはそういうと僕をスーパーマーケットに案内するようにせがんだ。ともよちゃんは夕食の食材を自分で選んで、調理したかったのだそうだ。
 彼女が一人で買い物をしにこれるようになるのはそう遠い日のことじゃないと思う。
 ともよちゃんは中華の食材や調味料をひととおり買いそろえた。お金を出す僕にずいぶん申し訳なさそうにしていたけれど、何のことはない。おいしいものを食べさせてもらうのは僕なんだ。
 帰り道、夕日をあびながらふたりビニール袋を下げて帰った。なんだろう、とてもあたりまえのことなのに、とても幸せだった。