選挙に行かないつもりにしていたんだけれど、家でごろごろしているとともよちゃんに怒られた。僕は禁治産者だしとか日本人じゃないしとか、そもそも人間じゃなくて宇宙の悪意が生んだ実体を持たない意識体だし、とかいろいろといいわけとか嘘とか言ったんだけれど、
「そういうわけで黒のワクチンの魔の手から地球を救わなければならないんだ、ナースエンジェル」
 などといいつつ看護婦さんの制服を取り出した時点で我に返った。なんだかともよちゃんも信じかかっているし。
「だいたいなんで投票しに雨の中出て行かなきゃならないんだ、投票用紙を配って回収しにこい」
「はいはい」
 ともよちゃんが黙って選挙のはがきを差し出したので言い訳も出来なくなった。ともよちゃんは最近僕の扱いに慣れてしまったような気がする。
投票率が50%なんて先進国として恥ずかしいですわ」
 などと僕のナショナリズムを巧妙に刺激する。やむなく小雨のぱらつくなかを投票所へ向かった。

 しかし、投票所についてはたと困ってしまった。誰に投票したものだか、どの政党に投票したものだか判断がつかなかったのだ。家に帰ってともよちゃんに聞こうと思ったのだけれど、なんだか情けないのでやめた。僕はうんうんうなった挙句、小選挙区は「妖怪ぬらりひょん」、比例代表は「発明政治党」に投票し、裁判官のなんかにはつい習性でバッテンを書いてしまった。僕はこの手の信任投票で丸をつけたことがない。高校の生徒会選挙なんかでもそうだった。

 雨の中を帰宅した。
「まあお帰りなさい。お疲れ様」
 ともよちゃんが玄関で微笑む。けれどもぼくがぬらりひょんドクター中松の政党に投票したことを告げると、ともよちゃんはいきなり玄関のドアをばたんと閉めた。
 結局2時間もドアの前で締め出しをくらい、家に入れてもらった後もともよちゃんはまともに口をきいてくれなかった。
「僕がどんな政党を支持しようと僕の自由…」
 ともよちゃんは厳しい表情でそっぽを向いている。
「……」
 
 
 馬鹿ということは罪なんだろうか。