酷い鬱で、どうしようもない。
 食欲までなくなってしまった。ともよちゃんには心配を掛けたくなかったんだけれども、僕の様子にあまりにも心配するのでとりあえず気分がすぐれなくてすこしもやる気が出ないということを告げた。
「そういえばあさも元気がございませんでしたものね」
 ともよちゃんが寂しげに言うが、どうしようもない。
「ごめんね」
「そんな。きっと、お仕事でお疲れなんですわ」
 僕はうん、と頷いた。忙しいのは良いんだけれど、あまりにもバカな連中に仕事を強要されている現実は精神衛生上とてもよくはないだろう。
「ごめんね」
 僕は謝ることしかできない。ごはんだって残してしまった。おいしいはずのともよちゃんに手料理が、鉛のようにかんぜられて。
「それは…おきになさらないでくださいまし。わたくしだって、その、ずいぶんそういうことでご迷惑を」
 ともよちゃんが一生懸命に慰めてくれる。
「とにかくゆっくりなさることですわ。今週はあんまりお仕事も根を詰めないで」
「うん」
「もうお休みになられますか?」
 まだ9時を廻ったところだが、どうにもしんどい。かといって眠れる時間でもないのだが。
「うん」
 僕はしゃべるのも億劫で、そうしてともよちゃんが気を使うのがとてもつらかった。なんでもないよとわらいたいのだけれども、どうしても出来ない。ともよちゃんがお布団を敷いてくれた。
「そうですわ、また、お歌を歌って差し上げましょうか」
「ごめん。きょうは、本当に、どうしようもなくつらい。ともよちゃんのこと大好きだよ。頼りにしているし、かけがえのない存在と思っている。けれど、今夜はひとりにしてほしい」
「わかりましたわ」
 ともよちゃんは頭がいい。物分りがいいというか、僕の気持ちをわかってくれた。
「眠り薬がありますけれども、お持ちしましょうか」
「おねがい」
 コップと、水差しと、なにやら紫色の大き目の錠剤を持ってきてくれたごく軽い睡眠薬だそうだ;
 がんばってあしたは元気にならないと。気ばかりあせって、そうして、なんだか余計に気持ちが苦しくなった。