それとなく忙しく、3日ほどジムにいけなかった。久しぶりというほどではないのだけれど、鬱憤がたまっていたのか少々むきになって追い込んでしまった。やっぱり腕が上がらないところまでやるのはよくないと思うのだけれども、これくらいやらないと満足感がない。ちょっとリバース・リスト・カールをやりすぎたのか前腕が痛い。背中もまだ痛みが残っているし、すこし慎重にやらないとなあ。
 
 くたくたになって家に帰るとともよちゃんが居間のソファーでうとうとしていた。
「だから戸締りをちゃんと…」
 起こしてそういおうと思ったんだけれど、なんだか起こすのもかわいそうだったので毛布を取ってきてかけてあげた。最近のともよちゃんは寝るのが遅いみたいで、寝不足なのかもしれない。
 くうくうと、愛らしい寝息を立てて眠るともよちゃんの寝顔を見ていると、なんだかとても安らかで心が満たされるような気がする。まるで、天使のような。あまりにも陳腐だけれど、そういうしかない。まるで人ならざる、僕のために天より使わされた。
 そうして自分は彼女を守るために”なにか”に生かされているのではないのかと。そこまで大げさに考えたりする。
 あまりいい趣味ではないこともわかってはいるのだけれど、こうしてともよちゃんがうたたねをすると、ついその様子に見とれてしまう。一度など、3時間近くじっと眺めていたこともあるのだ。自分でも馬鹿だと思うし、きっとともよちゃんがこんなことがあったと知ったら落胆するだろうなあ、とは思うのだけれども。たぶん、丸一日見ていても飽きないんじゃあないかと思う。
 でも今日のともよちゃんは、すぐに目を覚ましてしまった。
「う…ん」
 薄目を開けて。周囲をうかがい、そしてはっと目を見開く。
「まあ!お帰りなさいませ」
 僕はあわてて新聞を取って読んだりする。もちろんごまかしたつもりなんだけれど、ともよちゃんはなんだか恥ずかしそうに。
「あの、私の寝顔…」
 どうも僕がみとれていたのがばれているらしい。僕はあわてて。
「あの、えっと。眠っていてもいいよ、晩御飯は自分で作るから」
「そうは参りませんわ…。もう準備してありますのに」
 向こうを向いて、ともよちゃんが立ち上がった。台所のほうへ歩いていって、エプロンを身に着ける。冷蔵庫から何かを取り出して調理を始めた。
「あのさ」
「……」
 ともよちゃんは応じてくれない。怒ってしまったのかと思って台所の影からともよちゃんの様子をこっそり伺うと、火にかけられたお鍋の前で真っ赤な顔をしてうつむき、頬に手をやっていた。
 寝顔であれ、照れた様子であれ、どんなときでもかわいらしいのは反則だと思う。