ついこの間、うつ状態になったときは本当に酷かった。なにか理由があってうつ状態になるのならともかくとして、何の理由もなく突然気持ちが落ち込んでしまって、どうしようもなくなる。こうした経験はもう年に何回もしているけれど、いつなっても気持ちのいいもんじゃあない。
 いぜんなら一人だけだったので、本当に惨めな気持ちでその憂鬱な世界に耐えていたのだけれども、今は、ともよちゃんがいる。彼女は自らがその暗闇に耐え忍び、そうしてそこから舞い戻った経験があるからか、そうしたときの僕を本当に自然な形で支えてくれる。
 彼女は何も強要しない。ただただ。慈母のような微笑で僕を見守ってくれる。僕はともよちゃんに会社への欠勤の連絡をしてもらったことすらあるのだ。本当に情けない男だと思う。けれど、ともよちゃんの前で僕は多分生まれて初めてのことだけど、「弱くて何が悪い、情けなくて何が悪い」と考えるようになった。そのことにはじめて思い至ったとき、僕は幼いころから味わっていた奇妙な緊張感から解き放たれ、そうして涙を流しながら生まれて初めて熟睡することが出来た。
 思えば、あまりにも他者や世の中に対して僕は肩肘を張りすぎていたように思う。自分の力以上に他人に自分を評価させようと、そのことに汲々としたり、他人や組織から過大な評価を求めて、それが得られないと極端に攻撃的になったり。そうした僕の”いやらしさ””愚かしさ”を、ともよちゃんは否定せずに飲み込んでくれた。そんな僕にすら価値があると。はっきり言葉にしたわけではないんだけれど、そんな風に僕に接してくれているように思う。

 僕はこれからも全力で彼女を守ろうと思うし、そのことに見返りを期待しない。時々死にたくなるほど生きることに疲れても、彼女のために生きつづけようと思う。