ベンチプレスで潰れる。理由はとても書けないが集中力って大事だなあ、などと思い知る。
 顔真っ赤にしてトレーニングしている僕の家にともよちゃんがいるなどと、周囲の人は誰も思っていないだろうなあ。年齢的にもともよちゃんがうちにいる必然性が説明しにくいのであまり人につつかれたくないのだけれど、時々、
「これが僕と同居しているともよちゃんです」
 ってともよちゃんを連れて回りたい衝動に駆られる。一発で嫌われると思うので我慢しているが。
 
 

「しょうがない、勘弁しておいてやろう」
「?」
 ともよちゃんが箸をとめて小首をかしげる
「ごめん、なんでもない」
 どうもいらない言葉が口に出てしまったようだ。食事中だというのに。
「どうも今日はヘンですわね。そうそう、どうして今日は怪我をなさったんですの」
「してないよ。ちょっと胸が痛むだけ」
 ともよちゃんはまあ、といって僕のほうをじろじろと見る。このあいだみたいに湿布を直接塗られたりしたらたまらないので、
「怪我じゃないよ。ちょっと失敗しただけだよ」
「それにしてもどうして」
 珍しくともよちゃんが問いただす。
「それは」
 僕は危うく言いかけて、やめた。さすがにこんなことは言えない。少し間をおいて、ともよちゃんがお茶碗と箸をおいた。手をひざの上においてきちんと僕に向き直る。僕もあわてて背筋を伸ばした。
「お疲れになるのは結構ですけれども、お怪我をされては困りますわ。その、なんといいますか、心配で」
 真剣な口調で諭されてしまった。ともよちゃんに心配をかけてしまったことは悪いと思うけれども、やっぱりその理由だけは絶対に言えない。口が裂けても言えない。ともよちゃんの尋問はやがて説教に変わった。
「とにかく最近のあなたはお疲れのようですわ。私にそんなことが言えるかどうかわかりませんけれども」
「ごめんなさい」
「お仕事も運動もほどほどにしてください。わたくし心配で心配で。もちろんどちらも大事なんでしょうけど、もし万が一のことがあったら」
「ごめんなさい」

 ともよちゃんはわかっていない。僕がこうしてともよちゃんに叱られたり、ともよちゃんに謝ったりすればするほど僕的にはOKなことを。OKってなんだよ。