ミントに覚せい剤を注射するのは俺にとってとても心地よいものだった.溶液がミントの二の腕に注射針を通して注入される様を、ミントは呆然と見ている.その表情はどこかうっとりしておりこいつの、このおんなのあさましい一面を見るような気がして俺は−腹を立てた.
 掛布のサイン入り木製バットを手にとったが、危うくそれを振りまわすのをやめる.これで一度ミントを殺しかけたのだ.おかげで今ではミントは2、3歳くらいの幼児程度の会話しかできない。
「なんも心配せんでええねん。おまえはそこでそうしておとなしゅうすわっとったら、そんでええねん」
 地下室の薄暗く埃っぽい空気の中、ミントになんとなく言ってみた.
「おまえのことをわかってやれるのは俺だけや.そやから、おまえは俺のところにおるんがいちばんええんや」
 ミントは最初俯いてそれを聞いていた.こちらから見ても、連日の殴打ではれ上がった頬やまぶたが痛々しい.いや、痛々しいって、俺がやったんだけれども.そんなことより俺は俺自身が出した言葉のやさしさに驚き、かつ身震いした.
 そのとき、ミントは笑った.酷い顔をしていて、かわいらしさのかけらもなくなっていたミントだったが、それでも少女らしく笑った.
「ああ〜、薬が効いてきてゆめごごちでちゅわ。こんな原始時代みたいなローテクの惑星のきちがいのもとで副作用がものすごい麻薬を頂くなんて、あは、あは、あは、えへへへへへへへうfげsだjほdxh」
 何の事はない。シャブのおかげで脳が活性化しただけのことだ.
 俺はやさしい言葉をかけたことを後悔しつつ、掛布のバットを握り締めた.


 
 
夢を咲かせよ 球場の空に そして我等の この胸に
GO! GO! 掛布 GO! GO! 掛布 ペナントレースの 花と咲け

 
 
 
 俺はいつものようにミントが黙り込むまで素振りに没頭した.今年も頑張れ、阪神タイガース