まねきねこ商店街は瓦礫の山と化した。小隊とはぐれた私は味方の姿を求めてさまよい歩いていた。近くで散発的な銃声が聞こえ、そのたびに腰だめにしたカービン銃に力を込める。友軍の戦闘機−おそらく台南航空隊のF/A-22Jだろう、超低空で進入してきたかと思うと一撃全弾投下で通常爆弾をばら撒いていった。さほど遠くないところでいっせいに爆発が起こる。どうやらずいぶんと戦線が混交しているらしい。
 おそらく理髪店であったとおもわれる、半壊した建物の中にはまるで化け物のような肉塊ががたんぱく質の燃える独特の悪臭を漂わせて倒れていた。その肉塊は死骸かと思ったが、どうやらまだ生きているようだ。この地獄絵図に慣れつつあった私だったが、さすがにぞっとした。
「う…さだって…いう…な」
 立ち上がろうとしたその肉塊はそういうと、力尽きたかのように倒れこんで、今度はぴくりとも動かなくなった。声の調子から察するにまだわかい女なのだろう、私は同情を禁じえなかった。戦場に到着してからこっち、目をそむけていた現実がここにはあった。
 
「みんな…燃えてしまったみゅ。でじこも、ぷちこも」
 その声に私は思わずおどろき、自動小銃を向けた。
 少女が立ち尽くしていた。ただ呆然と。彼女の両親は…見当たらない。私が近寄って言っても、うつろに見上げるだけ。私はこんな年端も行かない少女に銃口を向けたことを恥じた。そして、なにか声をかけようとして、そして。
 かける言葉などなかった。何を言っても、それは偽善でしかない。
「燃えてしまったみゅ。ケーキもつくれないみゅ」
「君は」
 その少女の不思議ないでたち。この場所には、この地獄にはあまりにも不似合いな格好。楽器のトライアングルのような装身具、そうして何かの動物を模したかのような被り物。そのおさなくあどけないたたずまいに私の心が激しく痛んだ。
「怪我は、ないのか」
 この少女だけは救おう、安っぽいヒューマニズム、欺瞞と思われていい。それは正しいことなのだ、そう考えた私は少女に話しかけた。しかし少女は。
 
 
「資本主義者は死ねみゅ」
 表情も変えず言ったかと思うと、背負っていた鞄からテロリストがよく使う爆薬を取り出し私に体当たりをした。
 
 大音響が響く。
「こんな、おさない少女が…」
 私の声は、爆音にかき消された。うすれゆく意識の中私ははっきりと
「眠いみゅ…やっと眠れるみゅ」
 という声を聞いた。
 

 まねきねこ商店街という集落−南日本共和国と在日米軍が言うところの戦略村が一夜にして灰燼に帰してしまったことは、日本統一戦争の中ではありふれた光景だった。