無尽惑星サヴァイブ

「パパァーッ!」
 情けない悲鳴を上げてうざったい餓鬼は血しぶきを上げて倒れた。木の上に家を作るとは、なかなか凝った趣向だ。しかも宇宙船の構造材まで木の上に運び上げて。いったいどうやったんだ?おかげで発見に手間取った。まあ、近くに降下するとこいつらは喜んで出てきて、あっさり居場所がわかってしまったが。取りあえず帰る前に家を見せてくれという私の提案にしたがって、彼らは自慢げにその家にわれわれを招きいれた。全員が集まったことを確認してから、さっきから生意気だったその白人の少年を撃ったのだ。ここらで死ね。お前の死をのりこえてみんな成長するんだ。
「う〜み〜ゆ〜かば〜み〜いずく〜か〜ば〜ね〜」
 私は海ゆかばを歌いながらそいつに止めを刺した。
「おい、お前ら!お前らおとなしくしないと、このあたるとイタイ旧式の銃(c.永野のりこ)で撃つぞ」
 気丈にも一人の少女が前に進み出た。
「ハワード…。きさまら、なんてことを。許さん」
「うるせえ」
 私は例によって愛用のシグザウエルでそいつのそばにおいてあったバイオリンを撃った。脅しのつもりで。しかしそれだけでへなへなとその気の強そうな少女は座り込んでしまった。バイオリンが、バイオリンが。よれよれと手を前に突き出して、キチガイみたいな踊りを踊っている。
「おまえら、アニメキャラだからって、甘えんなよ!ふざけんなよ!アニメキャラだって、銃で撃たれたら死ぬんだよ!スレッガーさんだってそうだっただろうが!NHKだからって油断してんじゃねえよ。NHKだって昔はナディアとかで」
 機関士はカオルとか言う少年の手を引いて隣の部屋へ行ってしまった。私がぶつぶつと言っているあいだも、ルナは私のことを睨みつけていた。思ったとおりの展開に、私は嬉しくなる。
「酷いわ。こんなこと、人間のすることじゃない!」
 心の中でガッツポーズ。
「あ、うん、そうだね。そうかもしれない。でも、君もすこし現実を見てほしいんだ」
 私の言葉に一瞬、あっけにとられるルナ。
「何を言っているの?あなたのせいでハワードは死んじゃったし、メノリはキチガイになっちゃったのよ!」
「…………」
「…………」
「……ごめん」
「ハァ?」
「違うだろーが!ハァ?とかいわねーだろ!ちょっとこっちへ来い!」
 私はルナの髪を引っ張って、こちらに引き寄せた。隣の眼鏡っ子はあ、と声を上げただけで、さっきから震えている。他の連中もがたがたと部屋の隅で震えるだけだ。アニメキャラなのに、意気地のない連中だ。
「だいたいなんだその髪の毛は!アホ毛はどうした、アホ毛は!仕方ないなあ、もう」
 私はあっけにとられているルナの頭につけアホ毛を付けた。
「もう少し釣り目にして…ああもう、埒があかん!」
 私はルナの衣服を思いっきり引き裂いた。
「きゃあああ」
「勘違いするんじゃねえ!俺はそこいらのエロ同人とは違うんだ!無人惑星なのをいいことにレイプなんかするかよ!」
「エロ同人、エロ同人。アウアウアー」
 メノリは相変わらずふらふらしている。
「ええい、このリボンは、こうか?いや、こうだな。ああ、こっちへこう通すのか。ちょっと機関士、こっちへ」
 機関士は取り込み中のようだ。返事がない。向こうで、さっきから言い争う声が聞こえる。
「あの、この格好は、いったい…」
「白陵柊学園女子制服(夏服)」
「はく・・・え?」
「さあ、俺のことをお兄ちゃんと呼べ」
「あの、話が」
「だから、お兄ちゃんだろ」
「あの」
「ま、まさか…」
 私の心にある疑念が浮かんできた。その疑念はあっという間に大きくなってきた。
「茜ちゃん…だよね?」
「ハァ?」
 そうか。そういえば、髪の色も少しオレンジがかっているような気がする。それにカチューシャもしてない。私の心に浮かんでいた疑念は、失望へと変わった。
「似ていると思ったが…違ったか」

「…………」
「すまなかったね」
 私はよろよろと立ち上がると、機関士を呼んだ。機関士はカオルとかいう少年の前で何かを叫んでいる。
「うそだうそだうそだ!カヲル君が使徒だったなんて、そんなの嘘だ!」
 少年がいかにもうざったそうに言い返す。
「だから使徒ってなんなんだよ!」
「機関士!」
 私が彼を呼ぶと、彼は一瞬声を出すのをやめ、そしてさめざめと泣くのだった。
「冷たいね、ミサトさん
 このエヴァオタが。厨房みたいエヴァにこだわりやがって。時代は妹なんだよ。
「帰ろう。ここは俺たちの楽園ではなかった」
 機関士は立ち上がると、やがて出口へ向かって歩き出した。私はせめてなにかここへきた証を残したくて、彼らに言った。
「お前らにこのアニメのオチを教えてやる。ここは実は未来の地球で、砂浜に1/1マルチのフィギュアが埋まっている。3クール目から、地球を支配したメイドロボの大群に襲われるから」
「メイドロボ。メイドロボ。アウアウア」
 気まずい沈黙の中、キチガイになった少女がふらふらと何事かをつぶやきながら歩いていく。   
(おわり)