無尽惑星サヴァイブ

 地表部のスキャンを完了。人間らしき複数の生体反応があった。
 この惑星に立ち寄るために3回のチェレンコフ航法を用い、そのため行程では7.6パーセク、時間にして36時間の遅延が生じていた。今回の積荷の、メイテクーラ産のジジリウム鉱石の納期は完全に過ぎている。
 船長は船長室にとじこめたままだ。一度、艦内回線を介して”出せ畜生””アニオタ死ね””2次コンどもが”というメッセージを直接私のシートのコンソールに送ってきたが黙殺した。
「ここですね。北半球、緯度は38度あたりでしょうか」
 機関士が身をかがめて天井の大型スクリーンのポインタをあわせる。
「非常用シャトルの構造材料と同じものが確認できます。これでしょう」
「−うん。間違いない。あとは、俺がやる。君たちは俺に強要されただけだ。いいな」
 しかし機関士と通信士は首を横に振った。そして、機関士は前に進み出た。
「一等航宙士。間違いなく今回の行動はブリッジ要員の総意です。それに宇宙船舶法からいってもこの場合間違いなく救助義務があります」
「そうか。−いや、ありがとう」
 私はシャトルに乗り込むため、席を立った。
「あとは頼む、24時間で戻る」
「いえ、私も同行します」
 私は少しばかり驚いて機関士を振り返った。
「一等機関士、君の手を煩わせることもない。シャトルなら航法はオートだし、機関には触るところなど」
「いえ、その」
 機関士がすこし大柄な身体をちじめて言う。
シャトルのオームスですが、定期点検以来一度も火を入れてませんし、あれにはもともと3番スラスタがせきこむ癖があります。それにその…」
 機関士はこの惑星に流れ着いたと思われる乗客名簿の中の、目つきの悪い小生意気な少年を指差した。
「彼が、何か…ああ、そうか」
「ええ」
「しかし、彼はカオル、だぞ。一文字違いじゃないのか」
「それを航宙士がおっしゃるので?ルナという少女は名前すら」
 私は私の意図が完全に見透かされていることに気がついた。機関士は決然と言う。
「私も同乗します。もしかしたら、その」
「わかった。頼む」
 
 
 
 
 
「諸元入力完了。フライトチェックマニュアル、107番までグリーン。ニュートンリアクタ、ロケットプロペラント、ともに異常なし。発進準備完了」
アクエリアスよりオーディシャス。後を頼む」
 シャトルはオーディシャスから切り離された。
「航宙士、やはり3番、動作不良です」
 機関士がモニターを眺めながら言った。
「じゃ、3番をカット。他のスラスタにフォローを」
「コンピューターがやってくれています。…軌道離脱」
 マイナスGがかかると、衛星軌道上にあったシャトルは急速にオーディシャスから離れていった。そして高度を下げる。
「ルナ、か」
 口に出して言ってみた。機関士は何か考え事をしているようで、聞きとがめられることはなかった。大気圏突入の振動と轟音がわれわれを襲ったのはそれから数分後だった。
 
 
 つづく