僕だって昨日は楽しかったよ。でも疲れたんじゃない?結構たくさんお話したもんねえ。本当に元気そうで何よりだった。僕もともよちゃんと同じだった。やっぱりあって話をするまではどことなく不安で。手紙には書いていないけれどずいぶんと様子が変わってしまってたりしていたらどうしようか、なんて。考えることは同じだね。
 でも、すこうしばかり痩せたんじゃないのかな。気を悪くしたらごめんね。でも、ともよちゃんはもうすこしふっくらしているほうがかわいいし、僕も見た目にも健康に見えて安心できるんだ。だから、ご飯とかはちゃんと食べてね。
 面会室で、なんだか手に触れてばかりいて、ごめんなさい。すこし鬱陶しかったかな。でも、本当にともよちゃんがそこにいることを確認したくって。つい、君の手を取ったり、きみの何処かに触れていたくてならなかった。手のひらがすこし冷たくって、どきどきしたよ。本当に君がそこにいるって。
 家に帰って、てのひらを握ったり放したりを繰り返しながら、何度も感触を確かめて。一人になったらまたすこし不安になってさ。もう少しの辛抱なのにね。ああ、でも本当に会うことができてよかった。君が回復してくれて良かった。僕だって、君と会うことができる日をどれほど心待ちにしていたことか。
 
 ああ、そうだ。ともよちゃん、いくらなんでも看護師さんとあんな話…。聞いた僕が赤面してしまった。いくら女同士だって、あんなきわどい会話をするの?すごいなあ、女の人って。でも、なんだかともよちゃんもあんなお話についていけるのだからたいしたものだね。話の幅がひろがるのはいいことだと思うし、ともよちゃんにはどんどんと世間的な会話にもなれて欲しい(ちょっと君は浮世離れしたところがあるから)。それはそれですこし寂しい気もするけれど、それは僕のエゴだから。ただ、下品な人にはならないでね。
 
 またいつもみたいに安物のチーズケーキで。僕が好きだからつい買っていっていしまったんだけれど、そうかあ、みんなで食べるわけには行かなかったか。次はもう少し考えて持っていくよ。病院、確かにびっくりした。勿論入るときに金網に南京錠がかかっていて、警備員さんが立っているのには驚いたけれども、中は普通の病院と変わらないんだね。清潔で静かだし、安心したよ。
  
 佐々木さん、やっぱり心配だね。ともよちゃんが気にしてしまうのも無理はないよ。でも、彼女もそれが病気なんだし、苦痛を抱えているのならその痛みがなくなることを祈ることしかできないんだろうな、とか思ったよ。
 きっとよほどつらいことがあったんだろうね。でも、その痛みに苦しんで、それが表に出ているときの彼女が本当だなんて思いたくないね。やっぱり、心優しい愛らしい娘さんなんだと思う。ただ、こころが疲れ果てているだけだ。だから、あまり彼女のことを恐れないであげたほうがいいと思うな。
 ともよちゃんが佐々木さんをとても有難い友人と思っているように、彼女もきっと自分の暗いところを吐き出せる得がたい友人だと思っているだろうから。
 
 もしかして、帰り道なんだけれど、ふと中庭から病院の2階を見てみたんだ。そうしたら金網のついた窓越しにパジャマ姿のショートカットの女の子が見下ろしていたんだ。年恰好もともよちゃんと同じくらいだし、彼女が佐々木さんだったのかなあ。白いパジャマをきて、両手をたらしてぼんやりこっちを見ていた。こっちが気が付いて見上げると、にっこりと微笑んでくれたよ。彼女がともよちゃんの言っている佐々木さんなんだったら、ずいぶんかわいらしい女の子だね。手を振ろうか迷ったんだけれど、人違いだったら恥ずかしいのでやめてしまった。
 あんな子でもこころを患ったりするんだなあ。本当に、残酷な話だね。僕の能天気さを分けてあげたいくらいだ。

 ともよちゃんが佐々木さんのことを気にかけているのは痛いほど良く伝わってくるよ。だから、手紙に書くのならいくらでも書いてください。そうして思いやりをもてることが、ともよちゃんのいいところだと思うよ。でも、僕も専門家ではないのだし、できれば先生に報告してあげたほうがいいんじゃあないかな。なんにしても、彼女も速く良くなって欲しいね。
 
 
 では、また。今度は外泊だね。実はこれに備えてお料理、勉強したんだよ。腕をふるってあげるから楽しみにね。