昨日は楽しゅうございました。寒い中、あなたときたらいつものようにジーンズをはいて、上にはブルゾン一枚で。相変わらずかっこうには無頓着なんですもの。それで、寒い、寒いなんて。いくら最近暖かかったといっても無造作すぎますわ。
 でも、本当にお元気そうでほっとしました。わたくし実はとてもあなたのご様子が気がかりで、本当に気がかりで、もしお痩せになっていたらどうしよう、お疲れのご様子だったらどうしよう、などとたいそう気を揉んでおりました。
 ですから、あなたが面会室で本当に明るい顔で笑いかけてくださって、そうして私の手を取って子供みたいに喜んで下さって、とてもとてもうれしゅうございました。そうして、心強く思いました。
 病院の中に入られて、驚かれたのではありませんか?実は、わたくしももっと変わった人たちばかりがいるものだとばかり思っていたのですけれど、いたって普通でまじめな人たちばかりで。あなたのお心使いでいい療養所に入れていただいたことには勿論感謝していますけれども、ときどき大きな声を出したりする人がいるくらいで。
 あなたと一緒に食事が取れるなんて。入院した当初は思いもよりませんでした。わたくしは倒れたときこそあなたに笑って見せましたけれども、その後もうぜったいにだめなんだ、わたくしはきっともうだめなんだと酷く将来を悲観していたのです。ですから、食事などという日常的なことがまたあなたとできて、そのことが本当に貴重なことで。
 生き返ったようです。まるで、生まれ変わったようで。ああ、わたくしのいのちは助かったのだと。そのことが実感できました。
 すこし大げさなところもあるかもしれませんが、本当にそのくらいあなたのことを心待ちにしておりました。
 面会室もすいていましたし、色々とつもる話もございましたのになんだかたわいもない話ばかりで。あなたの御同僚の失敗談とか、わたくしは看護師さんから聞いた笑い話だとか。でもほんの二月ほど前まで、毎日そうして二人で過ごしていたのですものね。あの毎日がどれだけ貴重なものであったか、こんなことにならないとわからないなんて。馬鹿な話だと思います。
 それと、お土産に頂いたチーズケーキ、おいしく頂きました。利佳ちゃんと分けて二人で頂きました。本当はいろんな人にもおわけしたかったのですけれども、甘いものを分けようとするとパニックになるほど人が集まってしまうと看護師さんに伺いましたので、こっそりと屋上につながる階段で利佳ちゃんと食べました。なんだかいけないことをしているようですこしどきどきしてしまいました。あまりやりつけないことをするものではございませんね。
 
 今日の利佳ちゃんはまたすこし様子が変で。特に、私があなたに会うことを伝えたあたりからおかしくなってしまったみたいなのです。お話が前後してしまって申し訳ありませんけれども、あなたが来るすこし前に利佳ちゃんと廊下でばったり会って。今日あなたにおあいすることを伝えたのです。
 あなたが年上の男性だということを言うと、とても興奮してしまって。あなたがどんな人なのか、容姿は、髪型は、性格は、学歴は、職業は、などと矢継ぎ早に聞いてくるのです。どうにもわたくしにはそれがやりきれなくて、何とかその場をやり過ごして、それからあなたにお会いしたのですけれども、あなたとの面会が終わって、上に書いたように二人で屋上につながる階段でお菓子を頂いておりますと、なにやらにやにやとしながら、「わたし、ここの屋上から飛び降りようとしたんだよ」とか、「あいつの目の前で死んでやるんだ」などと、恐ろしいことを口走り始めたのです。
 利佳ちゃんが病院の屋上から飛び降りようとしたのは聞いていましたが、前に聞いたときにはそのことを悔いているような口振りだったので、わたくし恐ろしくなってしまって。
 食べ終わると、いつものようにやさしい表情に戻ったのですけれども、一人で恐ろしいことを口にしている利佳ちゃんの顔は、まるで、別人のようで。ああ、こんなたとえが許されるのでしょうか。地獄の鬼のような形相で。
 本当はとてもかわいらしくて、同性の私から見ても掛け値無しに愛らしい女の子なのです。それなのにあんな顔で。わたくしは膝ががくがく震えてしまって。いったい、どちららが本当の彼女なのでしょうか。やさしい彼女が本当なのだと、それはもう、祈るしかありません。
 
 なんだかまた利佳ちゃんの話をしてしまいました。本当に、今日はあなたにお会いできて嬉しかったのです。ただ、どうしても彼女のことが気になってしまって。どうか、お気になさらないでくださいませ。
 またすぐにお会いできますね。寒さもまた戻ってきたようですが、どうかお体にはお気をつけくださいませ。
 
 
                  ともよ