セパ両リーグの交流戦とやらが始まった。 
 ぼんやりとテレビで野球を観戦しているといつものように雪城さんが俺の隣に座った。最近は俺に話し掛けるでもなく、ぼんやりとそばに座っていることが多い。
 もっとも去年からのごたごたですっかりプロ野球には興味がなくなってしまった上、俺自身が引き篭もりがちなネット弁慶の無能で、童貞でキチガイで恥知らずなのだと言うことも自分に理解できるようになってしまって、大阪ドームへ礒部をやじりに行くと言う俺の唯一の趣味すら誰にも理解されずただ悶々と過ごしていた。
 そもそも引きこもりなので大阪ドームへ出かけることすらきもちわるい。吐き気がする。この吐き気は何錠レボトミンを追加しても直らないのでどうしようも無いのだと思う。
 つまるところ俺は雪城さんに語るべき何ものも無いのだ、と気がついて愕然とした。なぜ彼女が此処にいるのかということに、俺は疑問を抱いたのだ。
「おかしい。そうだ、だって俺のようなだめな奴のそばにこんな出来のいい女の子が」
 にっこりとわらって俺の二の腕に無痛注射器を当てる雪城さん。
「いつもみたいに全てがキチガイの妄想なんてオチだと思ってたんだろバーカバーカ、これはお前の現実だ、お前はこの悪夢を永遠に繰り返すんだ、世界と言う闇を生み出しつづけるんだバーカ」
 俺は泣きじゃくった。その事実自体の恐ろしさより、雪城さんのやさしさが喪われてしまったことが悲しくて。彼女のやさしさの無い世界なんてかなしすぎる。