神尾家の納屋に監禁されてからはや3日が経とうとしていた。あいかわらず晴子さんは俺を解放してくれそうに無い。
「ほら、観鈴ゴハンやで」
 髪の毛も乱れて、ずいぶんとやつれた晴子さんが納屋にやってきた。あの葬式からすでに一週間が経つが、どうやらまともに眠ってないらしく目の下には酷いくまが出来ていた。
「あの、晴子さん。俺は観鈴って名前じゃ」
「何を言うてんねん…子供は親のゴハンを食べて育つもんやで…」
 そう言って俺に食事を差し出す。食事と言ってもブロッコリーとひじきとみかんとホタルイカの沖漬けとグロンサン内服液かなにかをまぜて煮込んで腐ったようなどろどろした物でとても食べられそうに無い。なんでこんなものをいとしい娘(彼女の中の設定で目のまえにいるのはむさい男だが)に出すのだろう。
 俺はますます困惑して呟いた。
「でもこんなものさすがに…たべられな」
「なにいうてんねん!アホ!」
 いきなり晴子さんは俺を殴った。
「アンタは観鈴や!観鈴ちんは食べ物の好き嫌いなんか一言も言わんかったで!」
 ボグ!ボグ!
 思いっきり顔面を殴打される。俺の顔はどんどん顔がはれ上がり、目のまえが霞んできた。
「ウチは観鈴と約束したんや!この夏を一緒に楽しむってな、それやのになんでアンタはそんなわけのわからんことを言うておかあさんを困らせるんや!」
 わけのわからないことを言って激昂する晴子さん。やがて嗚咽とともに崩れ落ちた。
「もうええ…かってにしたらええねん」
 俺の意識がだんだんと薄れてゆく。そのぼんやりとした思考の中で俺は、晴子さんは神尾観鈴が死んだことをまだ受け入れることが出来ないのだと悟った。




 
 次回、早くも俺に貞操の危機が