律儀なマミさん

ティロ・フィナーレ!」
 夕暮れのマンションの一室にマミさんの凛とした声が響いた。
 調度品の極端に少ないがらんとした部屋で、マミはその場で華麗につま先でターンした。
 正確に360度、分度器で測ったかのようにもとの正面に戻る。
 マミさんの手のひらには―ティーカップと皿。カップには「練習用」と書いてある。かちゃり、と音がして回転中すこしだけ揺らいだそれはマミさんの手のひらにあった。カップの中には熱湯。失敗すればリアクション芸を披露する羽目になる。
「はぁ…やっぱりダ○ソーで買ったティーカップじゃ、ノらないわ…」
 かといってお気に入りのマイセンはここ一番というところでないと使う気にならない。あれ高かったし。緊張感を保つために張った熱湯がすこしぬるくなっている。マミさんはポットからカップに熱湯を注ぎなおした。
 
「こんなことでくじけてはいられないわ!さああと50回!」
 
 
 
「……マミさん、何してるんですか?」
「っ鹿目さん!」
 足音ひとつ立てず、リビングの入り口にまどかが立っていた。
「かっかかかか、鍵は?」
「針金とヘアピンでちょちょっと…」
「え?」
「趣味なんです。ピッキング
「そうなんだ。ああそう、お茶となにか食べるものを…」
 キッチンへ行こうとしたマミさんの肩をがっしりとまどかが掴んだ。
「話をそらさないでくださいよマミさん。今何やってました?」
 マミさんはがっくりとうなだれた。まどかはじっとマミさんの悄然としながら整った顔を見つめて、静かに繰り返した。
「いま、なに、やってたんです?」
「練習…」
 すこしくぐもった声でマミさんが答える。
「練習って?」
「あの、砲火後ティータイムの、練習」
「ええええええええ?」
 不意にまどかが大声を出した。マミさんは露骨におびえ、そして真っ赤になってうつむく。
「だって、あれ、なんかマジカルな力でボスキャラ倒したら勝手に出てくるもんじゃないんですか?あれってあれってあれって、マミさんの意思で出してたんですか?」
 繰り出される疑問に頷くほかないマミさん。
「え?あれ、じゃああの変身の時のステップとか?あの乳強調のバトルコスとか?全部練習したのマミさん?カッコいいとか考えて練習して実戦で使ってたんですか?」
「あの、だってお約束というか…魔法少女だし…」
「いやいやいや、ないですよ。そんなだって、ティロ・フィナーレとか言わなくても必殺技って出せるんですか?え?え?」
 顔を伏せうなだれ目を潤ませているマミさんの周りをクルクル軽快に回りながら罵るまどか。
 この幕間狂言は、すっかり日が傾き二人が魔女探索に出かける時間まで続けられた。