地デジなマミさん

「ええー!、マミさん家って、まだ地デジじゃないんですか?」
 まどかはマミさんの部屋で振舞われた紅茶を吹き出しそうになった。珍しくマミさんの家のリビングのテレビがつけられている。夕方の民放局は内容の割りに妙に軽薄に聞こえるニュースをやっていた。
 そのニュース番組の画面の右上にメッセージが表示されている。「アナログ放送終了まであと○○日」
「これじゃ夏になったらテレビ見れないですよ」
「――ええ」
 マミさんは嘆息して言葉を紡ぐ。
「でも、忙しいから―テレビどころでは、なくて。多分アンテナは変わっていると思うのだけれど」
 テレビが対応していないのだ。
「あ、よく考えるといろいろと…」
 マミさんの家はあまりにも質素すぎた。外観こそ高級マンションのそれだが、少なすぎる家具、妙に実用性のないテーブルがより生活感のなさを引き立てていた。
「ほら、私、一人暮らしでしょう?それにこんな生活だし…万が一のとき、荷物が多いと…ね?」
 夕暮れの光に照らされたマミさんの柔らかな笑みは優しさと、ほんの少しの悲しみと、諦観が入り混じって、なんとも言えない美しさを持っていた。そのあまりの儚さにまどかは―
 
 
 
 
 











 
「つまんないな(ボソッ)」
「え?」
「マミさんち、つまんないな…さやかちゃんの家のXBOX360コールオブデューティーやってたほうがましだったな…(ボソッ)」
「か…鹿目さん、あの…ごめんなさいね、なんだかおもてなしもできなくて…」
 マミさんの表情が眼に見えて曇った。
「退屈だな…ずっとこんな調子なのかな…(ボソッ)」
「あの、あのねあのね、私頑張るから、ああそうだ、とりあえずテレビ買い換えないとね、いや、魔女探索の情報収集に必要ですものね?あとオカマゲームスフィア360?ちょっと漬物石代わりに…」
「ふぅ…」
 マミさんと目もあわせず大げさにため息をつくまどか。スカートのすそを払って、席を立つそぶりを見せる。
「ああああ鹿目さんおねがい待っていがないでぇ…えっとあの、ブラビア?あれを」
「私ソニー嫌いなんですよね」
「じゃほら、レグザ?アレにしましょう。いやもうこうなったら魔法で50インチプロジェクターとか、ああでもそんな大きなもの作り出したらソウルジェムが濁っちゃうでも鹿目さんに、あ、ちょっと待ってまだ帰らないで、どうにかするから、ほんと今日明日にでもヨドバシ行って買ってくるから…だから嫌いにならないでうぇぇぇん」
 綺麗な髪を振り乱して泣きじゃくるマミさんを見てまどかはこっそり微笑むのだった。
(やっぱマミさんの泣き顔最高やわー。正直テレビなんかどうでもええねんけど、一日一回は泣かさんとのー。)