戦争のはらわた

プラウダ高校戦が終わってから、みんなの様子がおかしいのです。
誰も私の話を聞いてくれません。声をかけてもくれません。
 
不肖、この秋山にも覚えがあります。
コレは−いじめというやつでありましょうか。
小学生のころから(自覚はないのですが)学校のクラスでも浮いていた私にとって、むしろこれは見慣れた光景、よく知った感覚ではありました。
「西住どの!西住どのお!!」
あんなに親しげにしてくれていた西住どのにまで無視されてしまいます。ただその表情はいつも悲しげで、私はとても
西住どのを責める気にはなりませんでした。
そういえば戦車道の仲間も、みな意気消沈している様子です。
私を仲間はずれにすることを誰かに強要されているのでしょうか。
それも納得がいきません。そうすることによってメリットを受ける者の存在が思い浮かばないのです。
 
あんこうチームの装填手には別の人が入りました。黒森峰との決勝に、私は不要だということでしょうか。
 
すっかりしょげてしまって、私は道草をした後、自宅へ戻りました。
そういえば…両親とも疎遠になっていたのです。
このような戦車狂いのおかしな娘になってしまって…とうとう愛想をつかされたのでしょうか。
 
店がまだ営業中だったので、裏口から入ろうとすると、なぜか…
そこに大洗女子の黒い制靴がきちんと並べられて、おいてありました。もちろん私のものではありません。
と、奥の部屋から話し声が聞こえてきます。
「…このたびは…」
「娘さんは…優花里さんはほんとうに…」
 この声…!西住どのの声です!私はとたんにうれしくなってしまって、思わず客間に足を踏み入れ叫びました。
「西住どの…!お会いしたかったです!秋山は感無量で…」
 
 しかしやはり西住どのは私を完全に無視しています。顔をこちらに向けることすらしません。
 父も母もうつむいて、西住どのと同じ方を向いて正座しています。
「本当に明るくてやさしい娘さんで…私たちはいつも助けられていました…」
 そのとたんわっとあの気丈な母が顔を覆って泣き崩れました。
「西住さんが来てくださって、優花里も喜んでいると思います、さあ…」
「そうですよ西住どの!母上も何を泣いておられるのですか!それよりもなにかお茶菓子でもおだし…」
 私はそのとき気がついたのです。
 父、母、そして西住どのが同じほうを向いて…いったい何を見ているのか…。
「西住さん、お線香を上げてやって下さい」
「…はい…」
 西住さんの目の前には仏壇がおいてありました。そしてその真ん中には笑っている…私の写真…!
プラウダ高校の機銃弾の流れ弾に当たって…私が偵察をお願いしたから!」
 
 西住どのは泣き崩れてしまいました。
 そこで私は思い出したのです。私はプラウダ高戦の時、徒歩で偵察に出る途中に突然撃たれて…
 戦死したのでした。