ともよちゃんがどうしたわけか文化包丁を持って立っていた。どうしたの、という暇もなくともよちゃんは僕の右腕を包丁で切断した。悲鳴を上げて逃げようとすると、今度は僕の背中に切りつけてきた。僕が逃げたためにともよちゃんの包丁は空を切り、そのまま地面に突き刺さった。コンクリートの地面はどうやらマンションかビルかなんかの屋上だったらしい、地面の崩壊が始まった。崩れ去るビルを必死で走ったが、ともよちゃんの包丁から逃れることはできない。僕は抵抗したがともよちゃんに一方的に切り刻まれていった。
 痛いけれど、なんだか無表情に血の海の中で返り血を浴びながら刃物を振るうともよちゃんがとてもきれいに思えた。不思議なんだけれども。
 
 
 目を覚ますと、ともよちゃんが心配そうに僕の様子を伺っていた。
「ああ、よかった、お目覚めに」
 僕はすこしどきりとした。ともよちゃんがまた襲ってくるのかと思ったからだ。しかしどうやらその気配がない。
「あ、あの、ともよちゃん」
「お顔の色が悪いですわ、さあ、心配はありませんよ」
 どうやらさっきのは夢だったらしい。そのことを理解するのに2,3分かかった。それくらい、なんだか現実感のある夢だったのだ。
「うなされているときは、起こさないほうがよろしいとか、聞いたことがありましたので、迷ったんですけれども」
 時計を見ると10時近い。ともよちゃんは部屋でうんうんうなされている僕に気がついて、部屋に入って様子を見ていてくれたらしい。
「ごめんね、日曜の朝から、こんな」
 ちょっと申し訳ないような気がした。ともよちゃんはこんなにやさしいのに、ヘンな夢を見て、挙句の果てにともよちゃんに心配をかけさせてしまった。ともよちゃんがにっこりと微笑んで、僕の手をとった。
「大丈夫ですね?お風邪を召されたりしていませんね?」
 僕がうなずくと、ともよちゃんはそっと握った手に力をこめた。なぜだかとても安心した。やわらかい、あたたかい手だった。
 と、やがてともよちゃんはするりと手のひらを僕の手から抜き取った。
「着替えをお持ちしますわ。お着替えになってくださいな。ご飯も用意いたしますわ」
 気がつくと、下着が寝汗で湿っていて気持ち悪かった。
 
 部屋を出るともよちゃんに僕は声をかけた。
「あの、ともよちゃん」
「寝言なら、何もおっしゃってませんでしたわ」
 先に言われてしまった。でも、何か言ってたんだろうなあ。でも、それ以上は聞けなかった。