大道寺知世の手紙(2)

 お返事、有難うございました。相変わらず、外は寒そうですね。病院の中はきちんと暖房が効いていてあまり実感できないのですけれども、窓から見る景色はとても寒寒としています。通勤などの道々、どうかお風邪などお召しになりませんように。 
 やっと自分のお体を労わっていただけると知って、とても安心いたしました。本当にこの2,3日のあなたのお手紙はとても悲しそうで、私としてもとてももどかしく、お医者様に何度も何度も私は大丈夫なのだとお伝えいただくようお願いいたしました。そして、きっとそれでもあなたは辛い思いをするのだと、そのことも半ばわかっていたのです。けれども、どうすることもできませんでしてた。
 わたくしは先端の尖ったものを持つことをお医者様に禁止されていました。何故なら。
 何故なら、ああ、どうか、驚かないで聞いてください、悲しい思いをしないでください。わたくしはどうしても死にたくなってしまうのです。自らを殺めてしまいたく、自らをこの世から消してしまいたく、そう思ってしまうのです。あの日、あなたの前で倒れた日からずっと、わたくしにはそうした思いが常に頭から離れず、病院の保護室の中で、ただ死にたい、ここに居たくないとそのことばかり考えていたのです。この世から私という存在を、わたくしが居た痕跡を消してしまいたいと。そのことばかりを考えておりました。
 このようなわたくしの物言いが、あなたを深く傷つけてしまうこともわかっているのです。でも、わたくしはこれまであなたに嘘ばかりついていました。まるで本当のわたくしをお見せすることがありませんでした。ですから、もうこれ以上あなたを欺きたくないのです。
 どうか誤解しないでください。あなたと暮らした日々はとても幸せでした。本当に、本当に楽しゅうございました。そのことだけはどうか疑わないでください。けれども、わたくしのそうした暗い思いはもっと心の奥深いところ、いいえ、まるでわたくし以外の別の何かからやってくるようです。半ば強制的にわたくしの心を動かして、何かがわたくしを殺そうとしているかのようにわきあがってくるのです。
 あなたと暮らしていくことで、そうしたものから逃れることができると本当に信じていたのです。けれど、そう簡単なものではありませんでした。
 あなたの優しさをこの身に感じながら、このような暗い気持ちを抱く、後ろめたさ。
 本当に、ごめんなさい。けれど、今はもう、ずいぶんと楽になりました。そうした思いからずいぶんと離れることが出来るようになりました。だから、もうあなたをこれ以上裏切りません。私がまた私自身を消してしまいたくなったら、あなたに真っ先にご相談申し上げます。あなたを頼りにいたします。あなたにこうしてご心配をかけるくらいならば、そのほうがよいのだと、やっとわかりましたから。

 今日から、昼間は談話室などでご本などを読むことも出来るそうです。お医者様以外の方とも、お話できれば、と思っています。お仕事は相変わらずお忙しいですか?くれぐれも、無理はなさらないでくださいませ。
 
 
               ともよ