今日、病室から病院の中庭を眺めていますと、木々がすっかり葉を散らしていました。風が強かったのでしょうか、ずいぶんとあおられていましたが、丈夫なものですね、一向に折れる気配などありませんでした。
 2月になったら梅を見に行こうと誘って頂いていたのに、この様子ではどうやらいけそうもありませんね.ごめんなさい。遠く見える山の中腹あたりに梅林があったかと思います、このお部屋からもお花をつける様が見えますでしょうか。せめてあなたと同じ景色を見ることが、今のわたくしの最大の慰めなのです。いいえ、いいえ、同じ月を――などと、そんな馬鹿なこと、申しません。でも、同じ空の下にいること、同じ空気を吸っていること、それだけがわたくしの慰めなのです。
 今日は病棟の中の患者さんと会話もしました。私くらいの年頃の女の子もいたので、ほっとしました。実はあまり同じくらいの年の子はいないのではないのかと思いまして、期待はしていなかったのですけれども。
 物腰の柔らかなその少女は名前をささきりか、と名乗りました。どうもわたくしはその名前をどこかで聞いたような気がしてならないのです。そうして、相手もわたくしを認めると酷く驚いたようでした。よくよくたずねてみると、彼女もわたくしを過去のクラスメートにそっくりだ、などと言うのです。こんなことってあるのですね。でもその後もなんだか佐々木さんはおどおどした様子で、あの、りかちゃんとお呼びしても、などとわたくしが申し上げますと、「ひっ」などと短い悲鳴をあげて、手で顔を守るようなしぐさで後ずさるのです。わたくしは気の毒なので、佐々木さん、と呼ぶしかありませんでした。
 けれど佐々木さんはわたくしがりかちゃんと呼ばなければ、色々なことを話してくれました。とてもやさしそうな女の子で、思いやりに満ちた表情で色々なことを話してくれます。おっとりしているところはわたくしに似ているのではないかと思いました。
 佐々木さんは何でも小学生のときに年上の方と恋愛関係に陥ったのですが、その方とのことで色々とあったらしくそれ以来酷い鬱状態にさいなまれるようになり、入院したのだそうです。
 とてもつらい出来事だったようで、それ以上のことは話してはもらえませんでした。無理もないことのように思います。わたくしもうすぼんやりとはいえ、今私がこんな状態になった原因のことを思い出すととてもつろうございますから。
 佐々木さんと、ずいぶん久しぶりに女の子らしい会話ができて(内容は秘密です)とてもこころが楽になりました。よいお友達ができたと思います。


 いろいろと心配をかけてしまって、ごめんなさい。泣いてしまうほど、悲しい思いをさせてしまったことをお詫びします。けれどもどうしてもこれ以上嘘は言えなかったのです。そうしてわたくしはこれからも色々と本当のことに触れていかなければならないと思います。ずっとそのことから逃げてばかりいてはいけませんものね。
 あなたがわたくしのことを最後まで信じていてくださる、そのことがとてもこころ強くて、嬉しくて。あなたがそうおっしゃって下さることはわかりきっていたのに、やはり嬉しくて。何度も何度もその文字列を眺めておりました。
 お忙しい中、いつも病院まで足を運んで頂いて、申し訳ありません。どうか無理をなさらないで下さい。もしお願いできるなら、気が向いたときで結構です、私の部屋のお料理の本を持ってきていただけますでしょうか。勿論病院の中ではお料理を作ることはできませんけれども、退院したときにしばらく作って差し上げられなかった分、腕によりをかけてお料理をこしらえて差し上げたいと思っています。
 あっという間に就寝時間になってしまいました。もう少し書きたいこともあったのですけれども、それは明日以降に取っておくことに致します。お休みなさい。
 
 
                 ともよ