第二日大分―別府―(やまなみハイウェイ)阿蘇―高千穂―北郷村

 朝、雪城さんに肩を揺すられた。
 一瞬会社に遅刻するような気がして慌てて起きてしまう。そんな僕を雪城さんは笑った。ぼんやりしていたが顔を洗うと頭がすっきりした。朝6時、ほぼ定刻にフェリーは大分港についた。
 フェリーを利用するときはバイクは特だと思う。たいてい車より先に乗船できて、一番先に降りれるからだ。薄暗い船倉から、多少潮をかぶって濡れている下船用の鉄板の上をそろそろと雪城さんを後ろに乗せて降りる。地面に接するとそこが九州だ。
 ツーリングと思しきのバイクは僕たちのほかに2台だけ、それも軽装備のようだったのでもしかすると帰省か何かかもしれない。むしろ僕たちのような歳の離れた男女の2人連れというのは浮いている。
「天気が悪いですね」
 バイク屋で売っていた安物のインカムごしに雪城さんが話しかけてきた。
「うーん。予報は晴れだけど。でもこれからちょっと山に登るからねー」
 僕たちは一般道へでるまえに一旦バイクを降りて合羽を着込むことにした。僕はともかく雪城さんはなんだかつんつるてんの子供みたいに着膨れてしまって、笑ってしまった。
「もう!」
 笑う僕を雪城さんが睨みつけた。ちくしょう、かわいいじゃないか。
 
 別府の温泉に入るにはちょっと時間が早すぎた。もったいないが通過する。別府から西、水分峠まで上り坂を登っていくことになる。
 自慢じゃないが僕の単車は、ボロいヤマハのトレール車だ。2サイクルなのでピークパワーは申し分ないのだがパワーバンドが狭く、荷物やら雪城さんやらで車重が重く、ちょっとギヤチェンジのタイミングを外すとすぐスピードが落ちる。
「ひえー、この坂3速まで落ちちゃった」
 思わず声に出してしまった。
「あら、調子悪いの?」
「いや、俺が失敗しただけ。というか」
 視界が悪くなってきた。
「霧が出てきた」
 雨よりはいいけれど。これでスピードを落さなくちゃならなくなったので。
「安全運転で行きましょう」
 雪城さんに言われるまでもない。それでも7時半には峠についた。自動販売機の前にバイクを停める。
「寒くない?」
 首を振る雪城さん。大丈夫大丈夫、などと言う。とはいえ、ここで普通の缶ジュースを買うのは無粋だ。
「はいコーヒー」
 僕は何も言わずコーヒーを2本買って、雪城さんに差し出した。
「有難うございます。でも―」
「ツーリングの時に自販機で買うのは缶コーヒー、それもホットに限る」
 首をかしげる雪城さん。
「どうしてえ?」
 だから、かわいいんだよこんちくしょう!
 でも、なんでだろう。