第二日大分―別府―(やまなみハイウェイ)阿蘇―高千穂―北郷村

http://map.yahoo.co.jp/pl?nl=33.14.11.622&el=131.17.28.285&la=1&fi=1&sc=7

 水分峠からやまなみハイウェイに入る。最高所、牧の戸峠までのんびり上っていくと、霧は晴れてきたがやはり空は曇りだ。
 ちょっと気分を出して、車体を倒してコーナーを軽く攻めてみる。
「どう?雪城さん?怖くない?」
「ええ、楽しいです」
 たいてい出かけるときは電車か車だったので、タンデムは怖いかと思ったのだけれど、意外と度胸はあるみたいだ。実は僕は後ろの席に乗るのは苦手で、情けない声をあげたりする。
 それにしても。
「雪城さん、その」
「なあに?」
 邪念のない声。
「出る前に、乗り方教えたと思うんだけど…」
「あら、でも…ちょっと怖いわ、片手を離すと」
 タンデムのときの乗り方として―片手をライダーのどうに回して、片手はタンデムグリップを握るというのがセオリーなのだ。それが。
「あの、今みたいに密着されてると、その」
「え?」
「動きにくい…」
 嘘だ。本当は。雪城さんが。
「でも、怖いから」
「…」
 本当は、雪城さんの体が柔らかくて。ドキドキしてしまうんだ。結局、それ以上は言わなかった。
 
 牧の戸峠着。展望所まで歩いたけれど、今ひとつ景色は良くない。今度は下る。平地まで一気に降りてゆくと、湿地帯に入った。急に左右が開ける。
「まあ―」
 上機嫌な声。
「ん。バイク止めようか」
 駐車場にバイクを止める。
「ここもシーズン中は結構ヒトが多いんだけどねえ」
 閑散としている。道路自体、走っている車は少ない。
「あら、湿原の中も歩けるの?」
 ヘルメットを脱いであたりを見回していた雪城さんが言った。
「うん。木道とか整備されているみたいだし。歩いてみようか」
 小一時間、円形になった湿原内の歩道をぶらぶら歩いた。まだ朝露に濡れている。雨はどうやら心配なさそうなので合羽は脱いだ。
 僕は学生の頃行った尾瀬の話をしてあげた。至仏山から眺めた尾瀬ヶ原のこととか。雪城さんはそれらを目を輝かせて聞いてくれた。まったく、話甲斐のある子だ。
 
 
http://map.yahoo.co.jp/pl?nl=33.4.47.052&el=131.12.0.098&la=1&fi=1&sc=6

 飯田高原を出発。まだ9時前。
「んー、温泉、入りたいな」
「いいですねえ」
「ちょっと寄り道」
 国道442の手前で左に折れ、県道40号に入る。こちらも良く整備された道路だ。
筋湯温泉ってトコがあってね。掛け流しのいい湯だよ」
 やまなみハイウェイから5キロほど外れると、温泉街の入り口がある。県道からさらにそちらにバイクを入れると、狭い道路がいかにも歴史のある温泉街だということを意識させた。
 共同浴場のところでバイクを止めた。
「いい雰囲気だろ?」
 雪城さんはこくこくと頷いた。
 ここは基本的に一晩中入れるようだが、電気が10時頃消えてしまうらしい。以前来たときはヒトがいたのだけれど、なんと今は無人化されていた。
 300円の入浴料を払って自動のゲートを通る。
「じゃ。雪城さん、ちゃんと髪乾かして出てきてね」
「ええ。貴方もちゃんと髭を剃ってください。フェリーで剃りそこなったでしょ」
「ちぇ。目ざといなあ」
「うふふ」
 雪城さんが女湯に消えた。


なか
http://www.oks.or.jp/~tom/spa/spa.htm
 
 
 雪城さんびっくりしているだろうな、と思いながら体を荒い、入念に髭を剃った。ザー、という大きな音とともに打たせ湯が上から降ってきているのが特徴的な温泉だった。
 ぬる目のお湯にのんびり浸かって、時間をかけたつもりだったのだけれど外に出ると雪城さんはまだだった。温泉の前に湧き水があったので呑んでみる。冷たくて美味かった。
 
 湯上りの雪城さんが落ち着くまで温泉の前のベンチに腰を下ろして待ってから、再び走り出した。やまなみハイウェイからミルクロードを経由して大観望へ。

 http://map.yahoo.co.jp/pl?nl=33.4.47.052&el=131.12.0.098&la=1&sc=6&CE.x=72&CE.y=425
 
 国道265から高森町へ抜ける。昼食後さらに国道325で高千穂へ。ドライブインで食事のあと、高千穂峡谷を見に行く。
 平日だというのに団体で結構混んでいた。それになにやらにぎやかだ。
「昔はもう少し静かだった気もするんだけどねえ」
 何とか博物館、とやらの放送が煩い。
「でも渓谷は綺麗ですよ」
 遊歩道は台風の被害で荒れていた。
 
 五ヶ瀬川沿いに下る。少し行ったところに日之影温泉駅という駅があり、その駅はなんと駅の2階が温泉になっているのだ。で、行ってみたのだが。
「定休日…」
「死の世界だ」
 仕方なくふたりで駅のホームへ出てみると、丁度延岡行きの気動車が一両で入ってきた。中には何人か地元客が乗っているようだったが、この駅での乗り降りはなかった。
「しょうがないじゃない」
 明るく笑う雪城さん。そりゃそうだねえ。幾分がっかりして、バイクに戻った。
 
 
 http://www.google.co.jp/search?hl=ja&ie=UTF-8&q=%E5%85%AD%E5%B3%B0%E8%A1%97%E9%81%93&lr=
 
 やむなく日之影から六峰街道へあがる道をたどろうと思ったのだけれど、いずれも台風のため路肩崩落で通行止め。なんだかツキがないなあ。国道まで戻る。
 
 高千穂のスーパーで買出しをして、地図を広げた。
「今日はここに泊まるんですよね」
 昨日船の中でざっと探して打ち合わせたキャンプ場を雪城さんが指差す。宮崎の山中にえらく整備されたキャンプ場があるらしいので、今日はそこまでいこう、ということだった。雪城さんはキャンプなんて林間学校くらいしか経験ないだろうし、設備の整っているところのほうがありがたい。
「んー、道がやられてなきゃいいけど」
「そうね」
「ま、そんときゃそんときで」
 実際、キャンプ場までの道はよく整備された国道と県道で、まったく問題なく行き着くことが出来た。



http://www.citydo.com/outdoor/miyazaki/3064.html
 
 4時過ぎ、着。人気はないが軽トラが一台とまっていた。誰かが作業をしているのだろうか、物音は聞こえなかった。
「ちょっと綺麗過ぎて贅沢だねえ」
「そうなの?」
「うん。本当にただなのかなあ」
 見るとコインシャワーや水洗便所、これもコイン式だがサイトごとに電源まである。
「おまけに静かだし。凄いね」
 雪城さんは頷いた。
「そうですね。本当に静か」
 僕は荷物からテントを引っ張り出した。雪城さんと一緒に組み立てる。久しぶりに設営したがあまり時間はかからなかった。