雪城さんの腕に覚せい剤を注射する。3回目。
 とろんとした雪城さんの瞳には理性はない。いや、若干の意識のようなものは感じられるのだが、その輝きは高い知性や気高い意志のようなものは一切感じられず、ただ薬物によって得られる安穏と閉塞感をのなかに閉じこもりたいという欲求のみが感ぜられた。
 細い腕を縛っていたチューブをはずす。ゴムを撒きつけていたあたりが赤く腫れていて、ちょっと痛々しい。
 …痛々しいだって?僕は彼女に何をしたと思う?純度の高いシャブは雪城さんを、あのやさしくて綺麗でおっとりしていて、でも言うべきことはきちんと言って、それで僕を甘えさせてくれた雪城さんを、あっという間にパンパン見たいな中毒患者にしてしまった。
 
 こんなつもりなんてなかったんだ!
 ただ、美しい花を不意に手折りたくなる…
 綺麗に組みあがった積み木を、壊したくなる…
 羽化したばかりの甲虫の羽をむしりたくなる…
 
 とろん、とした目で、雪城さんは僕にしなだれかかってきた。たこ焼きやの屋台の中は僕たち二人だけだあとの子達、先輩もみんな買い物に行ってしまった。
 この何時間かの間、僕は本当に悲しく、何かを失ってしまった喪失感に堪えながら、それでも雪城さんの一番美しい姿を貪るのだ。
 「ああっ…」
 ひときわ高い声があがる。雪城さんの声だ。キッチンの道具に頭をぶつけそうになる雪城さんの首を抑えて、のけぞらないようにする。
 アプローチはいつも積極的だ。雪城さんが心持抑えている下半身のスカートの中へ、したから手を入れてゆく。
「あっ…ああんっ…あっ…あっ」
 あの知的な雪城さんが、薬を入れられただけでこんなこんな恥かしい身体に。僕の身体は熱くなってもうどうにもならないくらい熱くなっていて。
 ブリーフから粗末なものを取り出すとしごき始めた。
「はっ…はぁ…あああっ」
 僕が雪城さんを感じさせているという事実が、それのみが僕を高揚させていた。たとえ不当な手段で彼女を拘束したのだとしても、彼女に投薬を行ったのだとしても。
 
 ああ。そうだ。僕は地獄に落ちてもいいのだ。罪は未来永劫償います。今この瞬間、雪城さんが落ちる様を見守る為に。
 はあはあと僕が引っ張り出した粗末なものを雪城さんの掌にあずけた。まるでなにか大切なものをいただくように恭しく僕のソレを押し頂く彼女は、やがていまひとつ慣れない手つきで僕の陰茎を刺激し始めたのだ。
 この刺激は―この世のものともおもえぬ快感だった。
 まったくあらぬ方向をみ、片方の手を自分の印核のあたりに激しくすり合わせ、もう片方の手で僕の陰茎を刺激する。ああ、なぜだ。
 あんな薬物が彼女をこんなみだらな存在に変えるなんて…!
 僕は下腹から湧き上がるような快楽の奔騰に身を委ねようとする。と同時に、自分も開いている手で雪城さんのいろんな所をなぶった。
「あっ…あうっ…ジュポッ、グポッ、んぐ…き…きもちいいれふ、か」
 僅かに残った雪城さんの知性は、性行動の確認へと向けられているのだ。
「うわぁあ、でちゃう、でちゃうよお」
 僕は取り返しのつかないことをした。僕は壊した、僕は取り返しのつかないことをした。
 
 しかし僕は僕を裏切れなかった。射精と言う行為に及び、僕はさっきまでの性的な昂揚感が醒めてしまったのだ。
 よこたわる雪城さんの白い裸身。勿論薬物のせいでぐったりとしている。
 全く変わり果てた。無残な姿だ。安物のエロビデオ女優みたいに、精液を身体に浴びてよこたわっているのだ。
 雪城さんがこんな風になってしまったのは、勿論僕にある。3日まえ、学校帰りにあんなことさえなければ。