僕は酷く酔っていた。
 どうにでもなれ。そう思って知世ちゃんにありのままを告げる。
「僕は約束なんて守れない男なんだ。君と交わした約束なんて…なんとも、思っちゃいない。本当だ、なんともおもってなんかいないんだ。だからこうしてお酒を飲んで。ほら、息が酷いだろう。お酒の匂いばかりするだろう?」
 お願いだ、僕を早く軽蔑して欲しい。僕のこと嫌いになって、知世ちゃん。
 けれど知世ちゃんはいつだって、まるで僕の罪を全て赦す為にこの世に遣わされた、神様だとか天使ケルビムだか何かになったように言うんだ。
「まあ、随分とお疲れですわね。なんだか眼の辺りもくまができてらして―もうお休みになられますか?」
 僕の頭を抱えるように。そうして彼女の柔らかな膝の上に僕の頭を乗せるのだ。
「よしてくれ。僕は君に優しくされる謂れなんて、無いんだ。僕は。僕は」
 いつの間にか僕は泣いていた、泣いて僕は知世ちゃんにすがることしか出来ないんだ。「まあ」
 知世ちゃんはすがすがしいまでの、そう、邪気のない笑顔を浮かべて。
「大きな身体をして、うふふ、良いですわ。今日はいくらでもお泣きなさいな。わたくし―決して貴方を裏切ったりしないのですから」
 僕はどうしていつも恐れていたのだろう。知世ちゃんが僕に酷いことを、僕に罰を与えるなんて、ありえないのに。
 僕を包み込むように、僕の上半身に手を廻した知世ちゃんは、くすくすと笑いながらそれでもしっかりと僕を抱きしめていた。僕は漸くそのことに安心し、何日ぶりかの眠りにつくことが出来た。