葵ちゃんは強い・ディレクターズカット版(その6)
朝の葵ちゃんは元気で清清しくてとても素晴らしいよ
ロードワークをひたむきにこなす葵ちゃんはまるで一枚の絵のようだ
漏れは昨日の悪夢を忘れそして葵ちゃんもそのことに触れようとはしない まるで無かったことになってしまったようだったよ
でもそれはそれで良いんだ きっと正当なことなんだと思う
そうしてその日も葵ちゃんのハードなトレーニングの一日が始まったよ
坂下との試合まで、もう何日も無かった 来栖川綾香も試合を見にくるだとか何だとかいろんな噂が立っていた だからだろうか葵ちゃんはどんどんトレーニングの分量を増やしていった
漏れは今でも後悔しているよそのときの葵ちゃんのでたらめなトレーニング量そして気分の変調性格の破綻…きちんとした知識があれば気がついていたのに
全てが終末にむかって突き進んでいっていたんだ
その日の葵ちゃんはまず早朝1時間のロードワーク そして腕立て伏せ 懸垂
一見普通のように感じるかもしれないがロードワークのスピードはまるで短距離走者並だったし腕立て伏せや懸垂は全てのレップスを片腕でこなしていた
女の子が懸垂をできるだけでもたいしたものなのに公園のジャングルジムのてっぺんの棒につかまり全体重を片腕で支えて体を上下させる様はおそろしい
歯軋りをし唸りながら体を持ち上げるたびに葵ちゃんの腕には血管が縦横に走りパンプして膨らんでゆく
しなやかな葵ちゃんの肢体はどんどんとビルドアップされおぞましいまでのバルクを手に入れてしまった
それがここ数ヶ月の葵ちゃんのトレーニングの成果であることは疑いも無いのだけれどそれでもその光景には漏れは畏れを抱くしかなかったよ
十数回の片手懸垂を3セット繰り返すと満足げに葵ちゃんは呟いた
「ウォーミングアップ終わりです」
「……(;´Д`) (ウォーミングアップて)」
それから技術練習今日は漏れは寝技の相手をさせられるわけでもなくサンドバッグをささえるだけですんだ
葵ちゃんがサンドバッグやミットを叩くかわいた音が神社にこだまする
それはほんの数ヶ月前までは平和な光景であり音だったけれどもいま漏れの目の前にいるのは…戦いの鬼だった 鬼神だった
どれほどすさまじい体になっても愛くるしい大きな瞳や活動的で幼さを感じさせる髪型は変わらない
それに葵ちゃんは着やせするタイプなのかジャージを着てしまうともうすっかり以前までの葵ちゃんに戻ったみたいにちいさくて華奢な感じに見えるんだ まあ見る人が見れば判ると思うけれども
でも空手部の連中は「なんだ松原ちょっとは練習してんのか、体つきかわったじゃーん」とか言う程度にしか認識していない 体つきが変わった(;´Д`) …?馬鹿な 葵ちゃんはそのころにはそれどころのものじゃあ…
葵ちゃんのトレーニングの様子を克明に記したノートが手元にある それをひらいてみよう
半年間の葵ちゃんの記録がみっちりと書いてある
全て琴音ちゃんの手によるものだ
琴音ちゃん…(;´Д`)
ああいや、今は葵ちゃんの話をしよう
某月某日
体重42kg、ベンチプレス35キロを10レップス、ハーフ・スクワット50キロを3回。ハイ・クリーン20キロで10回、スナッチバーのみで練習
それまでほとんどウェイトをしてこなかった葵ちゃん これだけでも十分に葵ちゃんは同世代の女の子の水準を遥かに超えている でも葵ちゃんは満足しなかった そう満足しなかったんだ
そして今は…恐ろしいまでの筋量 筋力 改造人間と呼ぶにふさわしい 午後の練習で葵ちゃんは一体どれだけのパフォーマンスを発揮するだろう
ウェイトリフティングのオリンピック記録の更新だって夢ではない そのくらいまで葵ちゃんの化け物じみた能力は高まっていたんだ