葵ちゃんは強い(その13)

「いよいよ明日、坂下との練習試合だね、葵ちゃん」
 とうとう決戦の日が迫ってきていたよ
 漏れたちエクストリーム同好会(総勢三名)は最後の練習のために神社に集まっていた
 葵ちゃんも琴音ちゃんもこの一週間授業には出ていない かくいう漏れも半分くらいしかでていなかった
 一つには 葵ちゃんの発達をきわめた身体を対戦相手に見せたくなかったというのもある あれから葵ちゃんはさらにパワーアップを果たした 時々顔を出す町の道場ではもはや練習にならないらしい(葵ちゃんは多くを語らなかったが何人か病院送りにしていると聞く)
 そのため空手部員たちにはビルドアップされた葵ちゃんを見せたくはなかったのだ  これは琴音ちゃんの策だった 漏れは葵ちゃんの鍛え抜かれたボディをアピールして 坂下との試合を回避するよう一度だけ進言したのだが そのときの琴音ちゃんと葵ちゃんの漏れのチソチソに対する仕打ちはとてもここに描ききれるものでは…ハァハァ、いかん興奮してきた

 それは置いといて この数日葵ちゃんはとうとう精神的な最後の余裕を無くしつつあった そして琴音ちゃんが葵ちゃんに与える薬品や”サプリメント”の量も半端なものではなくなりつつあった
 
 ああ 駄目だ 酷いことになってしまっている そして漏れはそれに荷担していたんだ(;´Д`)
 知らぬこととはいえ許されることではない
 強くなりたいという葵ちゃんの言葉に逆らえず 琴音ちゃんの不吉な笑いに耐え切れず漏れは漏れの大切な葵ちゃんの体の中に恐ろしいものを入れ そうして…





 葵ちゃんの攻撃衝動の異常な昂進はとどまることを知らなかった そして恐るべき副作用 そうしたものも葵ちゃんの肉体を徐々に蝕んでいた
 男性化現象 皮脂の増大 体毛の増加 気分の変調 そして目に見えない甲状腺やホルモンバランスの変化という 真に恐ろしい副作用はこれから始まるのだが そのときの漏れたちには知る由もなく

 あれからときどき葵ちゃんにチンコを踏んでもらったりいろんな形で窒息させられかけたり 言葉責めに合ったりもしたけれども それでも漏れは葵ちゃんのそばを離れることができなかった この勝負を見届けなければならない
 いまは琴音ちゃんの”サプリメント”の影響でこんなに荒れた性格になっているが 坂下を倒し綾香に自分を認めさせることができれば葵ちゃんはまたもとのさわやかな格闘美少女に戻るに違いない

 漏れは夢想した にこやかな笑顔で、時に真剣な表情でランニングやらシャドーを行い、汗を流す葵ちゃんを応援しエクストリームで勝ち進むことを そして日本を 世界を制することを
 
 それは幸せな未来だった 漏れ 琴音ちゃん葵ちゃん 3人で世界を目指すんだ 最高じゃないか!












 葵ちゃんは最後の調整としてサンドバックに向かっている 猛烈な打撃音だ そして


「坂下!殺す!綾香!殺す!」


 ・・・我に返った…(;´Д`)
 こぶしを叩きつけるたびに恐ろしい形相になってゆく葵ちゃん
 あのたおやかでしなやかな葵ちゃんの肢体の面影はない
 いま目の前にいる葵ちゃんは極限まで筋肉が膨らみパンパンに腫れ上がり 体はまるで3倍にも4倍にも大きくなったようだ けれど脂肪はこれっぽっちもついていない 躍動する体に合わせて筋肉が震えるのだがその重量感は…女性のものとは思えない
「殺せ!坂下!殺せ!」
「殺す!殺す!殺す!」
「綾香を殺せ!打ち殺せ!」
「綾香!殺す!」
 琴音ちゃんが葵ちゃんの後ろにたってバッグうちに合わせて叫ぶ 漏れには明日の試合が不安で不安でならなくなったよ
 実は昨日 坂下に話をしに言った 葵ちゃんはお前を殺すかもしれないと伝えた しかし坂下はまともに取り合おうとはしなかった 本当に試合をするのか こんな葵ちゃんと…

 もう漏れには判っていたのだ このころには
 さすがにもうこんなでたらめな結果が出るはずがない 
 なにかとんでもないことをやって葵ちゃんは強くなったのだ
 だがそれで本当にいいのだろうか…漏れには判断できない
「殺せ!殺せ!殺せ!」
「殺す!殺す!殺す!」
 ドシドシっという重たい音が間断なく続く あの突きとけり一つ一つが致命打になるのだ



 漏れは…漏れは葵ちゃんのことが好きだ
 そして好きなら本当にこのままで良いのか?葵ちゃんはこのままでいいのだろうか?
 漏れは自問自答した 考えて考えてそうしてあることに思い至ったんだ
 
 アンプル
 葵ちゃんに初めて注射した日アンプルの空き瓶を持ち帰った
 あのアンプルは確か家にあったはずだ ラベルを見て調べてみよう
 漏れは練習に熱心な二人に告げた
「漏れ、明日の準備あるから帰るね」
「……っ!…」
 どすどすとバッグを叩く葵ちゃん その瞳にはもはや狂気しかない
「あした、放課後、道場で」
 漏れは琴音ちゃんに告げた 琴音ちゃんは少し怪訝そうな顔をしたが了承したようだ
 もう彼女たちの視界には漏れは入っていない
 漏れに攻撃性を向ける余裕すらない
 全ては明日の試合 試合相手の坂下に向かっているのだ

 葵ちゃんは 殺る気だ
 それはもう痛いほど伝わってきた
 明日行われるのはスポーツでも武道でもない
 そして…殺し合いでもない 恐らくは一方的な殺戮だ
 漏れには判るのだ葵ちゃんが別次元に行ってしまったのだと
 
 漏れはあのアンプルをしまった場所を思い出しながら家路を抱いた
 しかしあのアンプルが仮にとんでもないものだったとして
 どうするのだ公表すれば葵ちゃんは坂下との試合 いや…格闘技人生をフイにするかもしれないのだ
 だからといって黙っていたら…
 漏れは迷いながら家路を急いだよ










 漏れは家に帰ると引き出しにしまってあったアンプルの壜のラベルを見たよ
「Plimobolan…プリモ、なんだ(;´Д`) ?」
 読み方が判らないのでとりあえずギコギコとインターネットで調べてみることにした
 ギコギコ…
 ググル先生で検索かけても英語のサイトばっかりヒットするんだ
 後は通販のサイトだ これは日本語のものもある。漏れは試しにそのサイトを開いてみた
 漏れの眼に飛び込んできたのはそっけない業者の販売ページだった
 やけにあっさりとかいてある

「プリモボランデポ:蛋白同化ステロイド
 金額も半端じゃない 個人輸入代行の業者のようだが 特に説明書きもなくただ商品名と注文ナンバー その他数字と記号が羅列してあるだけだ
 ステロイドというと 昔友人でアトピー性皮膚炎の奴がいて 塗り薬を塗っていたようだが 皮膚病の薬ではないのだろうかと漏れは疑問に思ったよ

 もっとちゃんと英語の授業を受けていればと後悔したが後の祭りだった
 ステロイドで検索すればやはりアトピーの人向けのサイトばかりヒットする
 別に葵ちゃんは皮膚が悪いわけでなく むしろ肌は綺麗なほうだというかすべすべでつるつるでどうにもたまらない とくに葵ちゃんの足と足の裏は絶品で 足の裏で漏れの敏感なところをすりすりされると とても気持ちがいいんだ特に変態変態とあの高い透き通った声で罵倒されながら乱暴にチンコを嬲られとくに最近葵ちゃんが身につけた技であるところの「漏れの首を背後からチョークしながらズボンとパンシを脱がせ、左足の親指と人差し指で漏れのチソコの余り皮をつまんで皮を剥き、敏感な亀頭部分を右足で少々乱暴に刺激する」をされると漏れは漏れは

 ああいかんつい脱線した
 とにかくステロイドでは埒があかない
 小一時間もギコギコしていただろうか 漏れは一計を講じた
「筋力 ステロイド
 これでどうだ 
 ギコギコギコ…
 検索で表示されたそれは驚くべきものだった



 漏れがざっと見たところによると ステロイドというのは要するに筋肉や筋力をつけるために使う薬物らしい それも成長ホルモンに作用して女性ホルモンを抑えたり 男性ホルモンを増やしたりという働きをするらしい
 漏れはその作用に関しては良くわからなかったよ でもその副作用についての様々な記述を見るにつけ漏れは自分でも血の気が引いていくのが判ったよ(;´Д`)
 
 とりわけ目を引いたのがステロイドを使用した人たちの末路についてだ
 あまり表面には出てこず 具体的な用例に名前は出てきていなかったが 有名なプロレスラーや 野球選手が命を落としたり重篤な障害を引き起こしている
 勿論格闘家にもそうした噂は常に付きまとい だれだれは”ユーザー”だとかいう噂話でインターネットの掲示板は持ちきりだった
 性欲の昂進 気分の変調 抑うつ状態 そうしたものには確かに葵ちゃんに現れていたが それにもまして気がかりなことというか 副作用についての記述は恐ろしい、おぞましいものがあって漏れは激しく動揺したよ(;´Д`)
 特に酷いのは葵ちゃんにの”女性”という部分に対する悪影響なんだ
 甲状腺の異常とかホルモンバランスとか難しいことは良くわからないが とにかく葵ちゃんの健康にとってとても危険なことだけは良くわかった
 漏れは矢も盾もたまらなくなって琴音ちゃんに電話をすることにしたよ
 いろいろと問い詰めたいこともあったが
 あれこれ考える前に電話機に手が伸びていた




「あのー姫川さんの…ああ琴音ちゃん?漏れだよ漏れ」
「え?藤田先輩?」
 いきなり電話に出てくれたのが琴音ちゃんで助かった (;´Д`)
 琴音ちゃんの様子は至って普通でちょっと驚いている風だった
「琴音ちゃん、ややこしい話は苦手だから率直に言うけど」
「はい?」
 まるで平静な態度なんだ 漏れはなにか自分の調べたことがとんでもない勘違いとか そういうものであるような気がしたよ
 もしそうだった場合 一生懸命トレーニングや研究を頑張ってきた葵ちゃんと琴音ちゃんを侮辱することになる
 それはどうしても避けたかった けれど琴音ちゃんたちの不興を買って…
 呼び出し>詰り>罵り>殴打>スパンキング>局部踏みつけ>スパンキング>局部踏みつけ>スパンキング>局部踏みつけ>スパンキング>局部踏みつけ>スパンキング>局部踏みつけ>罵倒>スパンキング>局部

「ハァハァハァハァ」
「藤田先輩?先輩?」
「ああごめん、ちょっと頭に電波が」
「もう、なんなんですか」
「ええとな、その。葵ちゃんの注射のことだ」
「…注射?」
 眉をひそめる気配がこちらまで伝わるようだ 矢張り琴音ちゃんは気を悪くしてしまったようだ でも漏れも口に出してしまった以上引き下がるわけには行かない
「そうだ。漏れは自分で調べたんだ。このあいだ葵ちゃんに漏れが注射したときのアンプルの壜があっただろ。あれを家に持って帰ったんだ」
「…へえ」
 そっけない返事が気にかかるが続ける
「漏れはラベルの薬品の名前でインターネットで調べた。プリモブラン、いっぱい薬品の業者の宣伝ページが出たよ。其処からいろいろ調べているうちに」
ステロイドのことですか?」
 琴音ちゃんの口からさらっとその名前が出た 漏れはぎょっとして二の句が継げなかった


 琴音ちゃんも葵ちゃんもそんな危険な薬物に手を出していることを隠したいはずだし 事実漏れには一切告げていなかったからそれは間違いないと思っていた でも
「ええ、あの時藤田先輩が葵ちゃんに注射したのはアナボリックステロイドの一種ですよ?それがどうかしましたか?」
「…(ドウカッテ (;´Д`))」
「もしかしてなにか危険な副作用があるとでもかいてあったのですか?嫌ですね先輩、それは頭の悪い人が頭の悪い使い方をした場合の話ですよ」
「でも下手をすると死んでしまったり…」
 溜め息を付く琴音ちゃん
「あのですね、先輩。副作用のない薬物なんてないんですよ。例えばちょっとまえ話題になったバイアグラってありましたよね。あれも元は血圧の薬だったのを、性機能の回復に効果があるという副作用が発見されて、それでそういう使い方をするようになったんです。副作用が主作用に取って代わったということですね。それとかたとえばドグマチールという胃薬は…」
 葵ちゃんはぺらぺらと話し出した とても饒舌な様はすこし不自然なほどだったよ
「あ、あの (;´Д`)琴音ちゃん?」
 漏れは延々と続く琴音ちゃんの話を遮った
「それって、葵ちゃんもわかっているの?副作用があるって」
 明るく琴音ちゃんが答える 即答だった
「ええ、勿論ですよ。リスクも説明した上で葵ちゃんは使っています。来栖川綾香に勝つためだって言ったらなんだってあの子プクスクス……ああいえ、とにかく葵ちゃんは喜んで使っていますよ」



 漏れの心配が過ぎたのだろうか それにしても漏れはインターネットで調べた浅はかな知識で琴音ちゃんを疑ったことをそのときは恥じたよ
「ごめん…琴音ちゃん。漏れはなにか葵ちゃんや琴音ちゃんが不正な手段でスポーツをしようとしていたように思ってしまった。漏れは恥ずかしいよ」
 息を呑む気配 琴音ちゃんは漏れの真摯な告白に押し黙った
「漏れは最低な人間だ、一生懸命な葵ちゃんや琴音ちゃんたちを疑うなんて…本当にごめん。また今度あったとき、お仕置きされても文句は言えないな」
 ちょっと漏れの願望というかお願いも入ってしまっていたが とにかく琴音ちゃんは漏れの誠意が通じたのか黙ってしまった 漏れは耐え切れなくなって 明日の葵ちゃんの健闘を祈る言葉を口にして 電話を切ろうと思った そのときだ
「一度回り始めた歯車は、止めることはできないんですよ」
 
 このときの琴音ちゃんの言葉は、その後の葵ちゃんの身体機能をそのまま暗示していたのだが その時は知る術もなかったよ
「歯車…?」
「なんでもありません、お休みなさい」
「ああ…夜遅く、悪かったな琴音ちゃん」
 琴音ちゃんのほうから電話は切れた むなしく電話の発信音だけが受話器から聞こえるだけになった
 漏れは釈然としないまでも 疑念が払拭されて安堵したよ
 後は明日の試合だ 
 異常なまでに気合の入りすぎた葵ちゃん レフェリーは誰がやるのか判らないが もし葵ちゃんが坂下をとんでもなく痛めつけるようなことがあったら 漏れが体を張ってでも止めなくちゃならない
 それは勿論坂下のためでなく 葵ちゃんのためなんだ
 いくら計算されて投薬しているとはいえ危険な薬物を摂ってまで勝負にかける葵ちゃんに漏れは健気さと そしてすこしの哀しみを感じたよ (;´Д`)