メモ:知世の素敵な「死の棘」/2

「洗いざらいここで言ってしまわれたらどうなんです、あなたはまだわたくしに隠し事をなさっているのでしょう?」
 こうなってしまうと手に負えない。知世ちゃんの目は爛々と光っていて、それが鋭く猛禽のように私を追い詰めるのだ。私はまた苦しい言い訳めいた戯言を重ねなくてはならない。
「もう隠し事なんて、ないよ。本当です。どうしたら信じてもらえるのですか」
「その言い方自体が卑怯で陰湿ですわ。どうしたら信じてもらえるのか、なんて、そんなきれいな体の人のような言い方をなさらないでくださいな。たとえば、そう、さくらちゃんにはいったいどのように接して、どのような視線を向けたのですか。おっしゃってください」
 知世ちゃんの追及はますます熱を帯び、そして理不尽なものへと変わって行った。
「無茶を言わないで知世ちゃん。僕がさくらちゃんと犯した不義はただ一度、あのときのことだけです」
「どのような不義を犯したのですか」
「それは、ええと。だからおとといもこうやって言ったように」
「いいえ、きっとまだあなたは隠し事をなさっていますわ。間違い、ありませんわ。はじめからおっしゃってください」
 そうして私はあの木の本桜との私通のこと一切を知世ちゃんに話さなければならない。それは仔細に渡って。どのように触れたのか、どちらの手からどのあたりを触れたのか。それはもう、一切合財を。
 地獄の炎を渡るような数時間が過ぎ、まるで衰えることを知らなかった知世ちゃんの取調べは突如収束した。失神するかのようにその場に倒れこんだ知世ちゃんは床の上であるにもかかわらずぴくりとも動かない。
 勿論眠ったわけではなく、まるで線が切れたよう。
 寝床まで運んでやろうとするが、
「触れないでください…触れるな!姦夫!」
 音量は小さくともはっきりとした拒絶。私はどうすることも出来ずその場に立ち尽くすのみだった。