2人だけの科学部(その6)

 一目惚れ、とかそういうものでもない。
 彼女が”気になる存在”だったことだけは間違いないのだが。しかし当時の彼女を知るものなら、皆一様に頷くだろう。そう、雪城さんは男子の関心を集めるに足る少女だった。授業を受ける姿はすこし愁いを含んでいて、まるで遠く故郷を思うおさな子のように儚げに見えた。しかしひとたび彼女が口を開き行動すれば瞬く間にその憂愁は消えうせて、周りの空気が変わったようにぱあっと明るくなった。
 所謂天然惚け、などと俗に評されるような所もあったが、そういったところもまた彼女の魅力を引き立てていた。自らの美貌を含めた価値の高さに驕るでもなく、また過剰に譲るでもない。ごく自然に誰とでもわけ隔てなく会話し、そして品行方正、成績はトップクラスとくれば、もう非の打ち所はない。
 
 
 
 
 ……そんな彼女が狂ったのは、もう何ヶ月も前のことだ。 
 ある朝、いつものように登校し部活の朝錬を済ませ、向かった教室ではちょっとした揉め事が起こっていた。
 騒ぎを聞きつけた他のクラスの者までが廊下にまででてはしゃいでいる。何事か、と思いつつもホームルーム前の教室に入った俺が目にしたのは、黒板に大書された文字とその文字の下に引き伸ばされ貼られた写真だった。
 黒板には大きく、下劣な言葉が書かれていた。

雪城ほのかはエロビデオ女」
 
 雪城さん。エロビデオ。この億光年単位でかけ離れているイメージを持った言葉は、しかしその直下に貼られている数葉の写真で肯定されていた。
 おかしな衣装を着せられ、酷く無表情に男の責めを受ける少女。―いや、幼女と言っていいだろう。穢いものを口にねじ込まれ、またそれもとても無表情に受け入れている。
 そんなありとあらゆる、およそ成人男性が年端も行かぬ幼女に行いうるこの世で最も醜悪で愚劣な行為を受けているのは。そう、写真の中で犯されているのは。
 今よりはるかに幼い、しかしあの特徴的な富士額や意志の強さを示すようなくっきりとした眉。丸い顔の輪郭、目元口元。全てがそう。

 
 その写真の中で犯されていたのは。