晴子さんからの封書(1)

今日は久々にドカチン仕事が休みだったので、バイクでツーリングに出かけた。帰りに神尾さんちの前を通りがかると晴子さんが郵便ポストの前でなにやら地団駄を踏んでいる様子
バイクを止めて晴子さんに話しかけると晴子さんは憤慨していた
「くそっ、あいつら・・・。なんやあんたか。いや、アンタには関係あらへん」
晴子さんはポストに放り込んだものを隠そうとしたが漏れには見えたんだ
あの宗教の発行している新聞だった
「あいつら、ウチのおらへん時間を狙うてこんなもんほうりこんでいきよる…いや、村田は気にせんでええんよ?もう…すんだことやさかいに」
「晴子さん、なにか困ってるんじゃないの」
「こまってなんぞおるかい。こまっとっても、お前みたいな甲斐性なしに世話やかれる筋合いないわ。なんや、今日はバイクかいな」
「ええ。晴子さん、ドカ調子どうですか?」
「今帰ってきたよって、納屋に放り込んだわ。調子はええよ。それより村田、アンタちゃんと仕事いっとるんか。ほんまアンタは定職にもつかずブラブラしよってからに」
人聞きの悪いことを言う晴子さん
口は悪いが、この人は世話焼きなのだ
噂では、この間故人となった観鈴は、実は晴子さんの実の娘ではなく姪にあたる関係だったらしい。実の娘でもないのに、女手ひとつで子供を養う苦労というのは漏れには想像がつかないよ
だから、甲斐性なしと晴子さんに言われても一言も言い返せない
今日は休みだから、と晴子さんに伝えても何回も聞き返された。
「ホントですって。なんなら年末、ちゃんと源泉徴収の紙を持ってきますよ?」
「ああ、わかったわかった。よし。ほなら、ちょっと付き合い」
やっと晴子さんは納得してくれたのか、漏れを家の中に招き入れてくれた。

「ちょっと、かんにんな」
部屋に入ってすぐ、晴子さんは仏壇にお線香をあげだした。漏れもとりあえず仏壇に両手を合わせたよ
いつものキャミとジーパンに着替えた晴子さんは酒瓶を手に居間にやってきた
またこうなるのか、またバイクは押して帰らなきゃと思いつつ漏れも付き合うことにしたよ

「はあーあ。ホラ村田、遠慮せんと呑みぃ」
「あー晴子さん、漏れもう限界ですよ」
「しょうもないこといいなや。ホラホラ」
「もー」
晴子さんの酒量は底知れない。漏れはあっという間によっぱらってしまった
「なんや?恥ずかしい告白でもしたいんか?」
晴子さんの挑戦的なまなざし。漏れは酔いのこともあってついむっときて、昼間ツーリング中に思いついたことを口にしていた
「恥ずかしいというか…ちょっと、小耳に挟んだことがあるんですけど」
乾きものを口にくわえて小首を傾げる晴子さん
「ちょっとした噂で」
「なんや?怖い話か?」
漏れの深刻な表情を読み取ったのか、晴子さんが鋭くツッコんできたよ
「ええ。いや、ちょっと…晴子さんには刺激が強すぎるかな、なんて」
晴子さんはそこで爆笑した
「はははははっ!はーっははは!アンタの話でウチがビビることなんてあるかいな!あほやろ?村田、あんたアホやろ?」
ぺしぺしと漏れのおでこを叩く晴子さん。ムカツク。
漏れは決心して晴子さんに告げた。
「まあ…怪談の一種かもしれませんけど。晴子さん、話しちゃって良いですか」
コップに注いだ酒をちびりとやって、晴子さんはわらった
「せやからー!村田が何言うてもたいしたことないっちゅうに!」
漏れはカチンときた
「じゃあ、晴子さん」
漏れのただならぬ様子に思わず居住まいを正す晴子さん
「漏れの話が怖かったら、どうしますか」
晴子さんはふと逡巡したが、すぐに鼻で笑うように答えた
「はあ?ヘタレのあんたの話が怖かったら?ははは、あははは。そやなあ。ははははは、あーはははッ!」
「晴子さん、笑いすぎです」
「あははは、かんにんなあ(わらい)そやな、なんでもあんたの言うこと聞いたってもええよ」
「なんでも漏れのこと?」
「うん。アンタのこと」
「マジで」
「大マジや」
「それなら…」
漏れも酔いが回っていたのかもしれない
とんでもないことを口走っていた
「だったら、うーん」
「なんや?なんや?言うてみ?」
挑戦的な晴子さんの顔色、口調。漏れの背中を押すには十分だった
「晴子さんの背後から」
「うん?」
「晴子さんの背後から漏れの掌で胸部をほぐさせて欲しい」
一瞬、時間が止まったような気がした
「は…はあ?」
「いやだから、晴子さんの上半身のうち腕の付け根から体の中央部にいたる脂肪部をマッサージさせて欲しいと」
 
沈黙

やはり引かれてしまったか。漏れが黙って帰ろうとすると、晴子さんはいきなり爆笑した

「はははは!あーはははは!なんや村田。要するにあんた、ウチの胸を揉みたいんか?」
「いやもむとかではなくて。胸部を圧迫というか」
「ウチのおっぱいをもみたいんやろ?」
「おっぱ…いやその」
「あはははは、あーはははははは、ははははは!」
「なんですか。晴子さんこそ恥ずかしいんじゃないですか」
「あははは、はははは。ほんなら村田、あんた”おっぱい”ってウチの前で言うてみい」
晴子さんが悪戯っぽく笑う。漏れはむきになって答える
「お・・・お・・・」
「お・・・なんや?」
ニヤニヤ笑う晴子さん
「お洋服のなか…」
「あはははは!」
晴子さんがヒザを叩いて爆笑する
もうこれ以上は、男の沽券にかかわる
「ええ、晴子さんのオパ、おぱ、オパイを揉みたいですよ?いけませんか?晴子さんのオパイ、オ、オパを揉みしだきたいですよ?なんですか晴子さん?レイプしますよ?漏れだって男だしレイプしますよ?」
「うはーっははは!わははは!」
漏れは本当にむかついたので、帰ろうと思った。立ち上がろうとしたとき、晴子さんは漏れの服の袖を掴んだ
「ちょっとまち。胸は女の命や。それをどうこうしようというんやから、あんたにもそれなりの覚悟があるんやろうな」
芝居がかっているが真剣な晴子さんのまなざし
漏れは思わず居住まいを正した
「勿論ですよ」
「ホンマか。ウチかて自分の体をどうこうされるのは気に入らん。けど、あんたの話が怖かったら、アンタのことを認めたってもええわ。でもアンタの話が詰まらんかったら…そやな」
思案顔の晴子さん
「そやな、一生アンタのことをこれから短小包茎とか租チンとか、アンタの泌尿器のことをけなし続けてもええか?」
「そんな条件で良いんですか」
「あはははっ!」
爆笑する晴子さん
「アンタの話が怖いわけあるかい!アンタ、今日を境にウチにアンタの粗末なものを詰られつづけるんやで?公衆の面前でも?」
漏れはムカッときた
「それなら晴子さん、あなたは漏れにその、お、お、お…胸を…ええと、胸部をいろいろされたりするんですよ」
「ええよ」
即答だった
「”おっぱい”とか平気でいえんような奴がウチをどうこうできるかい!で、なんや。どんな話を聞かせてくれるねん」
晴子さんはあたりめをしがみながら、ヒザを乗り出して漏れのほうを見やった。バカにしつつも話は真剣に聞いてくれるようだ
「じゃあ、行きますよ」
漏れは話し始めた…