名雪にもっとやさしくしてあげて(その1)

赤い雪。
赤く染まった世界。
誰かの泣き声。

流れる涙を拭いたかった。だけど、手は動かなくて…。 
頬を伝う涙は雪に吸い込まれて…。
見ていることしかできなくて…。 
悔しくて…。悲しくて…。
大丈夫だから…。
だから、泣かないで…。

 
 
 
  
 
 
  

 
 
 
  
 
 
 
 
 








飛行機が無茶苦茶揺れた
「頼むから羽田に引き返してくれ!」って心の中で叫び続けて一時間
もう乗りたくない
とにかく雪の中、空港から列車に乗り継いで漸く漏れはこの街に帰ってきた
そういえば美坂香里が列車のこと「汽車」って言ったので爆笑したら思いっきりチソコ蹴り上げられたなぁ
あの田舎者め あいつ漏れのこと好きなんですかね?
とりあえず駅前のベンチに腰掛けて迎えに来るはずの名雪を待つ

…………

3時間待ったが名雪が来ないよ(´Д`)
いやな予感がして漏れは近所の公衆電話を探した
電話ボックスから水瀬家に電話してみる

誰も出ないよ(;´Д`)
こっちに来る前に電話した秋子さんの声音を思い出す
なにかにおびえているような声だった
迷惑掛けてごめんなさいごめんなさいと何度も謝る秋子さんはとても秋子さんらしくない

そもそも漏れがこの田舎町にとんぼ返りで帰ってきたのも、名雪が入院したりして大変だからと言うのが本当の理由だった
漏れの両親は否定したが、だいたい自分らの仕事の都合で何度も親戚の家に高校生の男子を押し付けるかよ(;´Д`)
まあこれであゆとセクス三昧だから良いけどなヽ(´ー`)ノ
月宮あゆの名前どおり若鮎のような少年のような未成熟の体をむさぼるのは至上の喜びヽ(´ー`)ノ
しかしこんなことなら自分で水瀬家まで行けばよかったよ
秋子さんの電話では、「どうしても名雪が迎えにいく」と言って聞かなかったらしいのだが
しかしあいつの天然にも困ったもんだ
漏れは水瀬家への雪道を歩き始めた


   

 
 

雪道をとぼとぼ歩いて水瀬家に到着
家にたどり着くと、外出着姿の秋子さんと鉢合わせした
「あ、祐一さん…」
「秋子さん、お久しぶりです」
「まあ…そうでした、ごめんなさいね…」
ついこの間まで一緒に暮らしていたのになんだか見る影もないほどとても暗い表情になっているよ
無理もない、一人娘が入退院を繰り返しているのだから
名雪を迎えに行かせる筈だったんですけど…」
「いやあ、べつに道に迷うわけじゃないですし、よかったんですけど」
目を閉じて俯く秋子さん
なんとなく愁いを含んだ表情には漏れをどきりとさせる香気が発せられていて
これが年上の女性の魅力なんだろうか
名雪が駅まで迎えに行くっていって聞かなかったんです。ごめんなさいね」
「はあ…」
「でも、名雪が急に…」
「どうしたんです」
言葉を濁す秋子さん
「入院したんです、それを送りに行って、私も今帰ってきたところで…」
「マジですか(゚Д゚)!」
考えてみたら妙な話だ
家で待ってりゃ良いのに
まあ暇つぶしに出てくると言うのならわかるがなにせ病院通いをしているような体だ
無理は禁物ではないのか(;´Д`)
そこで漏れははたと気がついた
「あ、そういえば」
疑問だったことを秋子さんにぶつける
名雪はいったい何の病気なんですか?」
「…………」
「秋子さん」
「祐一さん。立ち話もなんですから…」
門扉を開ける秋子さん
そういえばこの寒い中ずっと外で立ちっぱなしだったよ

  

 
 
 
「いやあ、なつかしいなあ」
玄関先で漏れはおどけて見せた
ついこの間まで水瀬家で起居してたのでなつかしいも何もないのだが
「いつ来ても変わらないなあここは」
引き続きおどけると、秋子さんははっとしたように漏れのほうを見て、そうして小さくため息をついた
「祐一さん…」
「え…なんですか(;´Д`) 」
「変わらないものなんて、ないんですよ…」
漏れの知る限り、一分のすきもない、慈愛にみちたやさしい母親の秋子さん
それがなんだか疲れきって、ネガティブなことを口にする…
「秋子さん、きっと疲れているんですよ。さあ、コートを脱いで…」
漏れは秋子さんの肩に触れた
「あ…痛っ!」
秋子さんが小さくうめいた
「あ…秋子さん?漏れいまそんなに強く触りましたか…(;´Д`) 」
「いえ、大丈夫ですよ。ちょっと足を捻ってしまっていて…そちらが痛んだんです」
「…そうですか」
触れた秋子さんの肩は暖かかったが、小さく感じられた
そして漏れは見逃さなかった

秋子さんの首筋に青痣があったことを…