空中勤務者 2

6月9日 木更津―元山(硫黄島)

 整備員や航空隊司令部の帽振れに見送られ0700離陸。
 私は第一小隊の2番機、つまり指揮官の用心棒役といったところだ。高度5000で編隊を組む。と、異変に気がついた。
 ずいぶんと進路を西方に取っている。航法のしっかりした97式艦攻の先導だから間違いないはずだが、と思っていたがその疑問は30分ほどで氷解した。
 雲ひとつない晴天下、われわれの眼前に富士山が大きな裾野を広げていた。先導役の艦攻の機長が気を利かせてくれたのだろう。故国に本当の別れを告げる。もはや富岳を拝むことはあるまい。
 
 ちょうど駿河湾を横断する形でわれわれは西進し、左旋回を行う。
 寄り道はしたものの1250キロの飛行で、迷うことなく、1245時、硫黄島に到達した。
 真昼の火山島は蒸し暑かった。このまま一足飛びに先を急ぎたいところだが、今日は元山飛行場の兵舎に厄介になることになった。