2006-01-01から1年間の記事一覧

2人だけの科学部(その9)

雪城さんは僕を疑いの目で見ていた。ただその表情は僕を責めるというよりむしろ僕に寄りかかってくるようで、とても弱弱しかった。まるで見捨てられることを恐れているようにも見えた。 「村田君…正直に言って。喧嘩でもしたの?」 僕の非常に稚拙で陳腐な言…

2人だけの科学部(その8)

午後の授業は欠席した。 さすがに鎖骨が痛むが、折れてはいないようだ。ラクロスのスティックで殴られたほうの肩をぐるぐると廻す。おそらく腹は打ち身だらけだろうが、藤村も美墨も僕の顔は一切殴らなかったので、制服を着ている分にはまるで怪我が目立たな…

2人だけの科学部(その7)

さすがにおもいきり蹴り飛ばされると堪える。雪城さんに随分と鍛えてもらったとはいえさすがにサッカー部のキックは半端ではない。 雪城さんに鍛えてもらった…? 僕はすこし自分の状況を忘れてその馬鹿な言い回しに心中笑ってしまった。それはいやらしい薄ら…

2人だけの科学部(その6)

一目惚れ、とかそういうものでもない。 彼女が”気になる存在”だったことだけは間違いないのだが。しかし当時の彼女を知るものなら、皆一様に頷くだろう。そう、雪城さんは男子の関心を集めるに足る少女だった。授業を受ける姿はすこし愁いを含んでいて、まる…

2人だけの科学部(その5)

「開けても、良いかな?」 すこし緊張しているのが自分でもわかる。でも雪城さんはまるで子供にプレゼントを買い与えたような気楽な口調で「ええ」と頷いた。 薄暗い部屋。畳敷きの雪城さんの和室にはほんのりと月明かりと、ごく控えめな光量の間接照明しか…

2人だけの科学部(その4)

雪城さんを蔵の前に待たせて、僕は中に入った。雪城さんちの蔵の中は思ったより広く、そこらの一軒屋くらいの広さはある。梁にいたが渡してあり、ちょっとしたロフトのような空間もある。充分に住めそうだが。 「…灯りは?大丈夫?」 「大丈夫だよ。洞窟探検…

2人だけの科学部(その3)

むっつりと押し黙っていた雪城さんが突然笑い声をあげた。くすくすという忍び笑いだったが、同時にその笑いになんともいえない彼女の暗い愉悦を感じる。ほっそりした指で隠したくちびるがなんとはなし、性的なものを連想させた。 その猥雑さ、後ろ暗さは悲し…

2人だけの科学部(その2)

雪城さんは無欲の人だ。真面目すぎて損をする人だと思う。 彼女が抱えている重篤な問題について気が付いているのは僕だけではないだろう。だが誰も対策をしようとはしなかった。そして彼女が理不尽に受け続けている苦痛を和らげようとすらしなかった。 ある…

2人だけの科学部

「村田君、そっちの部屋に入っちゃダメ!」 雪城さんの声に僕は吃驚した。最近は雪城さんの声におびえることが多くなってしまって、自分でも情けない。カーテンというか、暗幕で仕切られた壁の向こうにはドアがあった。以前は理科準備室として使われていたよ…

メモ:知世の素敵な「死の棘」/3

今日は知世ちゃんの具合も良いようで助かる。 ふらふらと町へ出て行ってしまうこともなく、一日部屋にいてくれた。この間など家を飛び出した彼女を完全に見失ってしまった。再びまみえた時には電停のそばの横断歩道の脇でじっと行き交う車や市電を眺めていた…

メモ:知世の素敵な「死の棘」/2

「洗いざらいここで言ってしまわれたらどうなんです、あなたはまだわたくしに隠し事をなさっているのでしょう?」 こうなってしまうと手に負えない。知世ちゃんの目は爛々と光っていて、それが鋭く猛禽のように私を追い詰めるのだ。私はまた苦しい言い訳めい…

メモ:知世の素敵な「死の棘」

いのちからがら南方から復員してきたが、帰ってきた故郷は荒れ果てていた。連合国によって分割占領され、英国統治下となった友枝町。財閥は解体され、大道寺グループは消滅。大道寺の関係者は拷問にかけられた。 知世ちゃんもなんの罪もないのに占領軍に捕ら…

葵ちゃんは強い(最終回)

エピローグ 東京から金沢へ向かう空路はすでに閉ざされていた。 藤田浩之がそのメールを受け取ったとき、既に北陸方面へ向かう飛行機は最終便が出た後だったのだ。はやる気持ちはあったがどうしようもない。 そうなれば陸路しか残されていない。しかし生憎、…

葵ちゃんは強い(その17)

姫川琴音の手紙 - 前略 藤田浩之様、突然このようなお手紙を差し上げますことを、どうかお許しください。私にはもう時間がありません。それは本当に、比喩的な意味でもオーバーな表現でもなく。恐らくは数時間、ことによると数十分の命だからです。 本当は藤…

葵ちゃんは強い(その16)

「どうしてですか?わたしこんなに強く…今日は、ちゃんと作戦を立ててきたんです。30秒だけ坂下先輩に打たせて、まあこれは遊びですけど。後はロープに追い詰めてダウンするまで連打。とどめはハイキック。これで一分でKO。完璧な試合でした。いったいなに…

葵ちゃんは強い(その15)

葵ちゃんがいったんコーナーに戻ってくる 「葵ちゃん、練習どうりよ!いつものように相手を襲って、どんな汚い手を使っても殺すのよ!」 「うん!殺す!坂下も綾香も殺す!犯して殺して犯して殺して犯して殺してやる!」 「その意気よ、葵ちゃん!」 「殺す……

葵ちゃんは強い(その14)

ついにその日がやってきたよ 葵ちゃんと坂下の決戦の日 いや エクストリーム対伝統空手の戦いだ 両者にも意地がありプライドがある だから負けられないんだ そう 負けられない それは漏れにもわかる だがだからといってこういう結果を生むことになるとは 随…

葵ちゃんは強い(その13)

「いよいよ明日、坂下との練習試合だね、葵ちゃん」 とうとう決戦の日が迫ってきていたよ 漏れたちエクストリーム同好会(総勢三名)は最後の練習のために神社に集まっていた 葵ちゃんも琴音ちゃんもこの一週間授業には出ていない かくいう漏れも半分くらいし…

葵ちゃんは強い(その12)

琴音ちゃんは漏れをみるなり顔をしかめたよ(;´Д`) 「藤田先輩…いったいどうしたんですか、そのナリは」 漏れは恍惚とした表情をしていた 葵ちゃんの胃液の持つ酸が漏れの心を溶かしてしまったようだった 「藤田先輩?」 琴音ちゃんの声はすこし気遣わしげだ …

葵ちゃんは強い(その11)

「ああっ!藤田先輩!今日も来てくれたんですねっ!」 放課後葵ちゃんが何事も無かった様に漏れを神社で待っていた 意外に思うかもしれないが 練習に入る前の葵ちゃんは天使のようにやさしいんだ 「朝は…ちょっと調子に乗りすぎちゃいましたね(^^ごめんなさ…

葵ちゃんは強い(その10)

「今の、長岡先輩ですよね。何話していたんですか」 志保が出て行ってすぐだ 琴音ちゃんが屋上にやって来た 志保は途中からでも授業に出るといって戻ってしまった ああ見えて根は真面目なところがあるんだ 「えっ…あのう(;´Д`) 」 漏れは固まってしまったよ …

葵ちゃんは強い(その9)

ToHeart2に、まだ在学しているはずの葵ちゃんや琴音ちゃんがなぜ出てこないのか? たとえ誰も漏れの話に耳を傾けないとしても 漏れの贖罪は終わらないんだよ(;´Д`) - 朝から3回もイカされた漏れは激しく元気が無かったよ 廊下で志保に話し掛けられたときに…

葵ちゃんは強い・ディレクターズカット版(その8)

ToHeart2に、まだ在学しているはずの葵ちゃんや琴音ちゃんがなぜ出てこないのか?… 続き - エエエエエエエエ!なんでそんなこと(*´Д`) ってそうか、すっかり筒抜けなのね…(;´Д`) 葵ちゃんは鼻息荒くそこらの中に突きや蹴りを入れていたがその言葉で琴音ちゃ…